激化する世界の半導体産業の地殻変動
台湾に集積した世界の半導体製造能力は、他の国と地域に急速に分散し始めている。米国の要請に応じて、TSMCは24年から米国で回路線幅3ナノメートルのロジック半導体の量産を開始する予定だ。このことで、米国は世界経済の盟主としての立場を守ろうとしているように思える。
また、インテルは米国内外で、必ずしも先端分野の製造技術を必要としない車載用のチップなどの生産体制を強化し始めている。
一方、米国の規制強化などによって、中国の半導体自給率向上は遅れ始めた。要因の一つに、先端分野の半導体製造に不可欠な「深紫外線」(DUV)」と、回路線幅5ナノメートルよりも先の微細化に必要な「極端紫外線」(EUV)を用いた製造技術が十分ではないことがある。
中国の露光装置メーカーである上海微電子装備においては、28ナノメートルの回路形成の歩留まり向上の余地が大きいようだ。また、他の半導体製造装置や検査装置に関しても、中国の製造技術は旧世代のものが多い。
特に、EUVを用いた露光装置に関しては、今のところ、オランダのASMLの独壇場である。その他、感光剤であるレジストの塗布と現像を行う装置(コータ・デベロッパ)は、東京エレクトロンのシェアが高い。ガスを用いてウエハー表面から不要な部分を除去する「ドライ・エッチング」の装置は、米ラムリサーチなどのシェアが高い。
今回、日蘭が米国と半導体製造装置の対中輸出管理の厳格化に合意したことによって、中国の半導体の自給率向上は一段と遅れるだろう。それは、急速に需要拡大してきた中国の半導体製造装置市場において、わが国やオランダの半導体製造装置メーカーが、収益を獲得しづらくなることを意味する。
そうしたことから短期的に、日米欧の半導体製造装置メーカーによる、中国以外の市場におけるシェア争いが激化する公算は大きい。なお、日米蘭政府の合意に関する報道の後、ASMLは「業績の見通しに重大な影響はない」とした。背景には、中国以外の市場におけるEUV露光装置の需要拡大があるとみられる。