「このまま終わっていいのか」。そう自問自答を繰り返した。もちろんいいわけがない。私はちょうど60歳になったばかりだった。これをきっかけになんとか自分が変われないだろうか。そう考え始めたのである。
そして、その思いが決定的になったのが2019年9月だ。
このとき、東京五輪マラソン代表選考レース「マラソン・グランドチャンピオンシップ」が行われ、卒業後も指導していた中村匠吾が優勝し、代表の座を決めたのである。
初めて教え子がオリンピックに行く。これ以上の感動はなかった。
私は優勝を決めた中村と抱き合って涙を流すと同時に、大きな決意をした。夢だった教え子のオリンピック出場を成し遂げた。でも本来の仕事である駒澤大学での指導はどうなのか。箱根駅伝に勝ちたいという思いを持って入学してきた選手たちの夢を叶えてあげられず、不甲斐ない結果ばかりだ。この時点で「勝ち方はもうある程度はわかっている」というおごりが心にあることや、年齢を言い訳にしている自分に気がついていたため、
「よし、私自身が変わろう、変わらなければならない」
そう決めた。
選手にもしっかり真正面から向き合おう、練習方法も変えなければならない、何よりかつてのような情熱を持って行動しなければならない、と感じたのである。
自分の本気度は行動することで伝わる。
自分を変えようと思ったときにまず行動を変えることにした。何より先に変えたのは、これまで「体がつらい」という理由でコーチやマネージャー任せにしていた朝練習で、選手の走りにしっかり自転車でついていくことにした。
朝練習についていくようになってから、明らかに選手たちの表情が変わってきた。私の行動の変化に「本気度」を感じたのだろう。