こちらがしっかり選手を見ていることがわかると、選手の練習への意欲や意識が上がってくる。言うまでもなく同じ練習でもその気持ち次第で効果は変わり、その積み重ねがレース本番につながっていくのだ。

「俺は本気で育てていくつもりだぞ」

 無言のメッセージではあるが、確実に選手に伝わっていく手ごたえがあった。

 年齢を重ね、ふんぞり返るのではなく「自分で動く」場面を自ら見つけ、始めていくのは大切なことだ。そして、私はそのことで周囲の状況や選手の行動がよく見えるようになった。改めて、行動を変えてよかったと感じている。

選手を伸ばすにはすぐに叱らず、泳がせる、考えさせる

 変わろうと思ったとき、「自分はなぜ叱ってばかりいるのだろう」と自問自答してみた。

 選手を強くしたい、頑張ってほしい、という思いをそのままストレートに表現すると、私はどうしても強い口調になってしまう。

 それは自分としては選手への期待の裏返しであり、叱咤激励なのだが、選手たちはそうは受け取らない。そのため、なるべく柔らかい言葉を使うように意識し、言葉遣いも優しくするように努めた。

 たとえば朝練習から気の抜けた走りをしていた選手がいると、以前は朝練習の段階で「何やってんだ、気の抜けた走りをしているんじゃないぞ」と叱っていたが、今はそこではあえて何も言わないようにした。

 そして、午後の本練習でも設定ペース通りに走れないようであれば、そこで初めて、

「しっかり走れなかった理由はどこにあると思う?」

 と、理由を本人に問いただすようにしてみた。すぐに叱るのではなく、少し待つ。泳がせて様子を見る。そして、最終的にいい結果が出なかったときに、冷静に話すように心がけたのである。