寺田本家は女系が長く、ここ3代以上、娘婿が蔵元を継承。優さんの妻の聡美さんは啓佐さんの次女で、自然食について学び、蔵の隣で発酵料理のカフェを開く。優さんは2003年に30歳で蔵入りし、その後、急逝した啓佐さんの遺志を継ぎ、昔の米の復活栽培や、酒造りに唄を取り入れるなど、自然酒造りに邁進。「楽しい気持ちが菌に伝わるように。うたうたびに蔵人と米と菌が響き合う一体感を感じます」と優さん。自然に委ねる米作りと酒造りは環境の影響を大きく受ける。「どんな味の酒になるか分かりませんが、おいしいのは間違いないです!」。自然な酒造りは業界外から注目され、米企業パタゴニアの食品事業からも声が掛かり国内外で販売も。人気酒は、玄米を1割しか削らず、木桶で酛すりを行う無濾過の「香取90」だ。酸味とコクが豊かで黄色みを帯び、燗酒にするとうまさがさえる。響き合いの結晶が飲み手にも力強く響く。

新日本酒紀行「寺田本家」寺田本家 香取90
●寺田本家・千葉県香取郡神崎町神崎本宿1964●代表銘柄:香取、五人娘、醍醐のしずく、発芽玄米酒むすひ●杜氏:寺田 優●主要な米の品種:コシヒカリ、美山錦、雪化粧、千葉錦、亀ノ尾、中生神力