サラリーマンの苦行「通勤」は実はメリットがあった

 サラリーマンにとって通勤ほど憂鬱なものはないだろう。朝早くに目覚めて身なりを整えて、歩いたり自転車をこいで駅まで向かわなくてはいけない。その次は満員電車に揺られて、場合によっては乗り換えしながらどうにか会社にたどり着く。雨や雪の日などは電車や駅が大混雑で出勤するだけでヘトヘトなんてこともあるはずだ。

 ただ、そんなサラリーマンの「苦行」ともいうべき通勤が、日本人の健康長寿に大きく貢献している可能性があるという。

「先ほどのWHOのガイドラインでも、週に150~300分の中強度の有酸素運動、もしくは75~150分の高強度の有酸素運動、またはその組み合わせで同等の時間・強度となる身体活動が推奨されていますが、実はこれは毎日電車通勤をする日本のサラリーマンではクリアできている人も多いと思います。自宅から最寄り駅まで歩いたり、電車の乗り換えなどで階段の上り下りというのは中強度の有酸素運動ですから」(津下教授)

 例えば、毎日行きに30分、帰りに30分、駅構内や道路を早歩きしている人は、1週間で7時間の中強度の有酸素運動をしていることになるので、WHOのガイドラインを軽くクリアしている。

 また、満員電車で通勤している人は納得だろうが、あの混雑の中で、バランスを保ちながら立つというのはかなりしんどい。隣の人に潰されないように押し返す際にはある程度の筋力もいるので、実はいい運動になっている。

 つまり、日本のサラリーマンは世界一座りっぱなしという体に悪い習慣がある半面、世界一混雑する満員電車などの過酷な通勤によって運動を強いられることで、なんとかトントンになっていた可能性もあるのだ。

 だが、ここにきてそんな「バランス」が大きく崩れてしまった。新型コロナウィルスの感染拡大によって、在宅勤務が導入されて、テレワークが増えたのだ。

「自宅にいるので通勤がないですしオフィス内での移動もありません。その一方で、ZoomやTeamsなどならば例えば2時59分に会議を退出して、3時からの別の会議に入室をすることも可能ということで、席を立つこともないWeb会議のハシゴが横行してしまいました。つまり、通勤によって補われていた身体活動量が大きく減って、“座りっぱなし”の状態が増えてしまったのです」(津下教授)

 しかも、今は多くの会社で全社員のスケジュールをWeb上で共有しているので、会議や打ち合わせの主催者がそこをチェックして「今予定を確認したらみなさん10時から11時が空いていたので、Web会議設定しておきました」なんて感じでどんどん予定を入れられてしまう。一見すると、これは効率よく仕事が進んでいるように見えるが、実は従業員の心と体をどんどんむしばんでいたというワケだ。