つまり、豊田章男トヨタ体制は長期化しているものの、トヨタの「モビリティカンパニーへの変革」はまだ途上であること、さらには今年秋に予定される東京モーターショーを大変身させた「ジャパンモビリティショー」開催に向けて、自動車業界のリーダーである豊田章男自動車工業会会長の手腕への期待が大きく膨らんでいた、ということだ。

 まして、一時廃止していた副社長を、50代前半の3人を抜てきする形で昨年4月に復活させたばかりであり、章男社長の後継はいずれこの中から選ばれるとみられていたのだ。

 それが内山田会長の退任に伴う章男社長の会長昇格と、後継社長には社内分社のレクサスインターナショナルとGAZOOレーシング(GR)カンパニーのプレジデントに、チーフ・ブランディング・オフィサー(CBO)を兼務する53歳の佐藤恒治執行役員を抜擢し、6月の株主総会を待たず、4月1日付で交代するサプライズ人事となった。

「トヨタの変革をさらに進めて、モビリティカンパニーの実現を新社長に期待し、私がそれをサポートする体制が一番良いと考えた」と章男社長は述べた。

 今年に入っての章男社長の動きは、なんとも不可解な状況もあったが、後で考えると一連のトップ交代発表につながるものだったし、時系列で追うと豊田章一郎名誉会長の逝去までの流れも含めて章男社長の胸の内に至る動きがあったといえよう。

 1月5日にホテルオークラ東京で自動車5団体賀詞交歓会が3年ぶりに開催されたが、主役の豊田章男自工会会長がコロナ陽性で欠席不在となった。だが、その1週間後の13日には、幕張メッセで開催された「東京オートサロン」のトヨタブースに章男社長が元気な姿で登場して「章男節」を聞かせると同時に、佐藤次期社長とともに壇上で笑顔を見せて、26日の社長交代を暗示する姿を見せていた。