映画館と家庭の視聴は
同じ映画でも別物の体験

 コロナの流行時は、人との接触を避けるために外出せず、動画配信サービスを利用して映画を楽しむ人も多かった。コロナが落ち着いてからも、映画館の上映と同時に配信がスタートした作品や、映画館に先行して動画の配信が行われた作品も登場して、映画館に行かずとも映画を気軽に見られる状態が整いつつある。

 だが佐々木氏は「映画館での映画鑑賞と家庭での配信映画の視聴は、全く別物の体験だ」と語る。

「映画館ではスマホの電源を切って作品を見るため、外界とのインフォメーションが断絶され、作品の映像や音など多くの情報量を集中して受け取れる環境となっています。一方で、家庭で映画を楽しむ人の中には、電話がかかってきたり、他の作業と並行しての“ながら視聴”や、倍速で視聴する人も多いと聞きます。これから先、映画をじっくり集中してみたい時と気軽に楽しみたいときで、映画館か動画配信かを選択していくのではないでしょうか」

 前述したように、コロナが流行していた時期には、動画を先行配信してから映画館での上映、もしくは映画館と動画の同時配信も行われた。しかし、「映画館・配信側双方であまり数字は伸びなかったと聞きます」と佐々木氏は話す。

 例えば動画で先行配信された作品の場合、家庭での視聴では作品と関係のない情報が入り込みやすく、環境の問題で没入度の低いまま鑑賞を終えてしまうことも少なくない。思っていた以上の満足感が得られない状態では、ポジティブな影響は伝播しにくく、いざ映画館での上映が開始されても世間では話題にならなかった、といったこともあったようだ。

 一方で、映画館でヒットした作品と関係の深い作品の動画配信が、映画館の集客につながった例もあるという。

「例えば、昨年5月に公開した『トップガン マーヴェリック』の場合、公開直後は、1986年公開の過去作『トップガン』を知っている世代が多く映画館に見に来ていました。ところが、『トップガン マーヴェリック』の評判を聞いた若い世代が動画配信サービスで過去作の『トップガン』を見て、それから映画館に『トップガン マーヴェリック』を見に来ていたようで、若い世代の割合が徐々に増えていったのです。動画配信が、映画館に良い効果をもたらしてくれた好例といえます」

 かつては、ビデオ・DVD・Blu-rayのレンタルサービスが担っていた旧作の普及を動画配信が担うようになり、「映画館でシリーズ最新作を見たい」と思わせる“呼び水”にもなっているという。