戦後、数々の英語のベストセラー本が生み出されたが、そこには時代の要請があった。特集『一度覚えたら忘れない英語勉強法』(全16回)の#15では、ベストセラー史から見えてきた、ヒットの法則と日本人の英語の弱点、そして今最も読むべき本をお伝えしよう。(フリーライター 石井謙一郎)
戦後80年で英単語集5冊が大ヒット
『DUO』など3冊は今なお定番
「英語学習書のベストセラーには、一般向け実用書・啓蒙書と学習参考書という二つの流れがあります。一般向けは爆発的なブームとなり、学参は先生や先輩によって語り継がれてロングセラーになる傾向があります」
1800点を超える語学書を刊行してきたジャパンタイムズ出版の伊藤秀樹社長はそう語る。
例えば、受験勉強に欠かせない単語集では、戦時中の1942年に刊行されて以来、長く単語集の代名詞だったのが、旺文社の創業者・赤尾好夫氏による通称「赤尾の豆単」。正式な書名は『英語基本単語熟語集』で1700万部超のヒットとなった。
この「豆単」に取って代わったのが67年に刊行された『試験にでる英単語』だ。「豆単」はABC順だったが、本書は著者の森一郎氏が約70年分の入試問題を調べ上げ、頻出度順に並べた単語集で、1500万部超のヒットとなった。
しかし英語と和訳を対にして機械的に覚えるのは、限界がある。四半世紀後、受験生の間で定番となったのは、『速読英単語』『英単語ターゲット1900』(共に92年)、『DUO』(94年)。
英語教材の編集を長らく手掛け、著書に『英語ベストセラー本の研究』がある晴山陽一氏は『DUO』に着目する。
「限られた数の例文の中に重要な単・熟語を盛り込み、従来の例文を読む負担を軽減しています。合理的で革新的だと感じました」
四半世紀たつ今も、この3冊が定番となっている。
では一般向けの英語学習書の動きはどうか。戦後から現在まで80年のベストセラー史を振り返ると、ヒットの法則と、日本人の英語の弱点が見えてきた。