十分な情報開示と役割分担の明確化

 まずは、コミュニケーションの量を増やすため、潤滑油となる情報提供を行わなくてはならない。

 外部から入ってくる人材がいかなる経歴の持ち主で、どういう分野で成果を上げてきたのか、どんなスキルがあるのか、そして、組織上の上下関係のどこに入るのか、これらについて上司は明確にして、メンバーに開示しなくてはならない。

 仕事におけるコミュニケーションの前提となる上記のような情報がないと、メンバーは外部から入ってくる人に対してどのような言葉遣いをすれば良いのかすらわからない。特に日本語には敬語という難しいツールがあるので、年齢はどうなのか、どのくらいのキャリアを持っている人なのかといったことを知らないとうかつに話しかけられないのである。このような基礎情報がなくても巧みにコミュニケーションを取れるムードメーカーがいれば良いが、そういう人は今の職場にはどんどん少なくなっている。

 また、外部からの人材と、他のメンバー一人一人との間にどのような共通点があるかを発見しやすいよう、メンバー個々人の情報をお互いに開示し合えるような場とツール(個々のプロフィルを開示する)等が必要である。同じ趣味や出身地などの共通点があれば、そこから関係が深まりやすい。共通の知人の情報も重要である。もちろん仕事をすることがメインの集団なので、過度にプライベートな情報を出したくない人はいるだろう。しかし、気軽に話せるネタがある人が新しい職場に一人いるだけで、転職者は職場に溶け込みやすくなることは経験者なら誰でも感じることだ。

 GoogleやSlackなどのグループワークツールの普及で、こうした適度なプロフィルの開示と共有は以前より格段に容易になっているはずで、フルリモートの企業などでは当たり前に行われていることであろう。

 そして、管理職は、当人が入ってきた後、チームのゴールに向けて、その人にどのような役割を担ってもらうのか、他のメンバーとの役割分担はどのようにしていくのかを、当人およびメンバーに明示し、仕事の進め方を共有しなければならない。昭和の時代であれば、四六時中メンバーが会社にいて、顔を突き合わせているため、マネジャーの明確な指示抜きでも、なんとなく各自が自動的に業務や役割を分担することができたかもしれない。しかしオンラインとリアルのハイブリッド勤務が当たり前の昨今では、「勝手にやっていいよ」と言っても何も起こらない。

 転職者はプロといえども、新しい職場で機能するためには、具体的なゴールとその実現のための仕事の進め方、役割分担や業務調整のための会議の仕方など、その場のルールをしっかりと認識しておかなくてはならない。他のメンバーとやり取りの方法を理解せずに、仕事を進めるのは無理だからだ。