また、子どもが小学校へ上がるタイミングなどで海外現地のインターナショナルスクールに入れたい、といった教育ニーズも高い。

 どちらも移住のタイミングを逃すと損害が大きく、コロナ禍であってもニーズは大きく崩れなかった。

 とはいえ、入国制限をしている国が多い時期は、富裕層の移住先が限られた。その中で唯一といっていい受け皿となったのが、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイだ。「世界中でロックダウン(都市封鎖)している時期にも入国できた数少ない国。コロナ禍以降、100人以上の移住をサポートした」と大森氏は明かす。

各国でコロナ禍による入国制限が続出する中、ドバイは、海外移住したい富裕層の数少ない受け皿となった各国でコロナ禍による入国制限が続出する中、ドバイは、海外移住したい富裕層の数少ない受け皿となった Photo:Delpixart/gettyimages

 そして、三つ目の要因として大森氏が挙げるのが、「コロナによる富裕層の死生観の変化」だ。

 今でこそコロナの感染症法上の位置付けは季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に変わるところまできた。ただ、当初は未知のウイルスの出現に、世界中が大混乱に陥った。「いつ死ぬか分からない、やりたいことをやらずに死ねるか、といった思いを富裕層から感じた」と、大森氏は振り返る。

 また、「生きている間にお金を使わないと意味がないと実感し、『体験』に対して今まで以上に資金を投じるようになった」とも考察する。その結果、「いつかは海外へ移住したい」と思っていた富裕層が、「いつかではなく今だ」と踏み出したケースも多いという。

 なお、日本人の海外永住者は22年10月時点で55万7034人に上り、20年連続で増え続けている。永住権は移住後に数年がかりで取得するので、日本人の移住時期とタイムラグがある数字だ。また、富裕層に限ったデータでもない。ただ、海外移住の重要なトレンドであることは間違いない。

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