見え始めたウッズの陰り
私生活の乱れも露呈

 昨今はアスリート生命のみならず、ウッズの名声にも陰りが見え始めている。ジェネシス招待でのラウンド中、同組だったジャスティン・トーマスの手に生理用品を握らせたことがSNSで拡散された。ウッズは「ジョークのつもり」と言ったが、あまりにも趣味の悪い冗談だった。

 意味不明の「奇行」に追い打ちをかけたのが、5年超にわたって生活を共にしてきた恋人エリカ・ハーマンからセクハラなどの理由で提訴された驚きの出来事だ。ウッズ側も反訴し、泥沼の法廷闘争へ突入している。

 ウッズの女性絡みの騒動といえば、09年暮れの世紀の大スキャンダルが思い出される。ウッズは10年に離婚。13年から3年間はスキー界の女王と交際。ハーマンと交際を始めたのは17年の秋だった。

 こうして振り返れば、ウッズは次々に勝利を重ねる一方で、スキャンダルも多かったことが分かる。しかし、これまでのウッズは、目の覚めるような勝利を挙げることで、人々の視線をスキャンダルからそらし、忘れさせることができていた。

 4度目の腰の手術後、痛み止めの薬を大量に摂取し、その影響下で運転していたとして逮捕されたときでさえ、18年のツアー選手権と19年マスターズで見せた奇跡の復活優勝が、あの逮捕劇を人々の記憶から追い出す役割を果たした。

 しかし、右足に深い傷を負い、私生活の乱れも露呈し、「老い」という人間の宿命の中にある47歳のウッズには、もはや、そんな離れ業はできそうもない。王者は着実に陰り始めている。

ラーム、ケプカ、松山
ニューリーダーは多士済々

 とはいえ、それがゴルフ界を崩壊させるというわけではなく、ウッズに代わってゴルフ界を率いていくであろうニューリーダーの候補は多士済々である。

 そして、今年4月のマスターズのリーダーボードは、まさにその「候補者リスト」のようだった。

 最終日に見事な逆転優勝を遂げたジョン・ラームは、スペイン出身の28歳。プロ転向後、いきなりPGAツアーで初優勝を挙げるセンセーショナルなデビューを果たした。

写真:ジョン・ラームマスターズトーナメントを制したジョン・ラームは、次世代のゴルフ界をけん引するニューヒーローの一人だ Photo:Andrew Redington/gettyimages

 21年全米オープンには、新型コロナウイルス感染症の隔離明けに滑り込みセーフで出場し、メジャー初制覇を遂げた。今年は年明け早々に3勝を挙げた上でマスターズに挑み、今季4勝目とツアー通算11勝目、そして初めてのグリーンジャケットを手に入れた。

 母国の英雄、今は亡きセベ・バレステロスを敬愛するラームは、バレステロスが最後にマスターズを制した1983年からちょうど40年後の今年、バレステロスの誕生日である4月9日に自身がマスターズを制したことを「歴史がもたらした奇跡だ」と喜んだ。

 そんなゴルフの申し子のようなラームが世界ランキング1位となり、「最強のプレーヤー」として輝いている現実は、ゴルフ界の未来を明るく照らしている。

 マスターズ最終ラウンドを単独首位で迎えたものの、2位タイに甘んじた32歳の米国人選手ブルックス・ケプカは、これまでメジャー4勝、PGAツアー通算8勝を挙げ、世界ランキング1位にも輝いたつわものだ。

写真:ブルックス・ケプカブルックス・ケプカはツアー8勝のうち、4勝がメジャー制覇であることから「メジャーハンター」との異名を持つ Photo:Andrew Redington/gettyimages

 21年ごろから膝や首などを次々に痛めて成績が低迷し、昨年6月に新ツアー「リブゴルフ」が創始されると、ケプカは早々にリブゴルフへ移籍した。その間、輝かしい戦績からは遠ざかっていたが、彼ほど「個」が際立つプレーヤーは珍しい。

 18年5月には故障した手首を治したい一心で「馬専門のカイロプラクター」を訪ね、奇跡のスピード回復を得た翌月、全米オープンを連覇。昨年、マスターズで2年連続予選落ちを喫したときは、大会から貸与されたメルセデス・ベンツの窓を拳でたたき割ろうとするほど悔しがった。

 自分の考えや意見をしっかり持つケプカは、今後のゴルフ界を担っていく存在といっていい。

 ラームもケプカもカリスマ性という意味で、ウッズに取って代わる存在にはなり得ないだろう。ただし、ウッズに代わってゴルフ界を率いていくリーダーには十分なり得る。

 今は、ラームはPGAツアー、ケプカはリブゴルフという具合に、主戦場は分かれてしまい、今後、二つのツアーが分断されたままそれぞれの道を歩んでいくのか、それとも統合などという形で一つになるのかは、今は誰にも見通すことができない。

 しかし、現在と未来のゴルフ界を明るく照らすための「新たな光」が、たくさん存在していることだけは確かだ。

 ラームやケプカ、それにマスターズで上位フィニッシュしたジョーダン・スピース、パトリック・リード、コリン・モリカワ、スコッティ・シェフラー。そして日本の松山英樹も、その一人だ。

 優秀で有望な選手が多いことはゴルフ界の幸運であり、彼らは何にも代え難い宝だ。「王者」ウッズに陰りが見え始めたとはいえ、そこにたくさんの「宝」と「光」がある限り、ゴルフの世界が沈みゆくことはないだろう。(敬称略)

Key Visual by Noriyo Shinoda