正解は、子どもが好きなキャラクターのお菓子やゼリーのセットでした。
 そして、彼はこう言いました。

「できるだけ状態のいい引き出しを他店舗から持ってきました。展示品ではありますが、新品も最短で取り寄せる手配をしております。こちら、もしよろしければ、道中の車の中で召し上がってください」

 彼は、スッキリした気持ちで旅行に行きたかった、というお客さんの気持ちを汲み取り、より楽しい旅行ができるように、お菓子を渡したのです。
 するとお客さんは、ケロッとして、ありがとうと言い、結局、後日新品の引き出しと交換することなく、展示品のままで納得してくれたそうです。

頭のいい人は勝ち負けは気にしない

 彼がそこで、今すぐ商品をお持ちできない理由を論理的に説明していたら、どうなっていたでしょう。
 お客さんは納得するどころか、より怒っていたでしょう。

 頭のいい人は、議論の勝ち負けではなく、議論の奥にある、本質的な課題を見極めようとします。

 議論になるのは、その人の根底に何か想いがあるからです。
 彼は、食器棚の傷に怒るお客さんの根底にある、“スッキリとした気持ちで旅行に行きたい”という気持ちに気づき、その課題を解決するために、奔走しました。
 結果的に、新品を取り寄せずにすんだのですから、お菓子代はかかったものの、コストは安くすみました。対応を誤り、お客さんを激昂させていたら、そのお客さんは一生お店に来てくれない可能性もあるので、長期的に考えると、お菓子代だけで会社に利益をもたらしたことになります。

安達裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が“本質的でためになる”と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。Twitter:@Books_App