激安株を狙え#1写真提供:財務省

激安株を狙うのは株主だけではない。金融庁と東京証券取引所が主導するコーポレートガバナンス改革が、実質化へ本格的に動き始めた。PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業への改善要請はその序章にすぎず、割安を放置したままの企業にはさらなる苦難が待ち受ける。特集『激安株を狙え』(全13回)の#1は、その狙いを解明する。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

政府とアクティビストの「蜜月関係」
株価を割安に放置する企業を狙い撃ち

「東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの是正に動き始めたことを評価したい。PBR1倍割れの企業は、資本コストに対する経営の失敗を意味するからだ」

 5月11日から3日間にわたって新潟市で開催された主要7カ国(G7)財務大臣・中央銀行総裁会議。その初日、金融庁が経済協力開発機構(OECD)との共催で開いたラウンドテーブルで、そう発言したのは、米カナメキャピタル共同創業者のトビー・ローズ氏だ。

 カナメキャピタルは、日本株運用を専門に手掛ける投資ファンドとして2018年設立。その投資先の一つである医療機器メーカーのフクダ電子に対し、買収防衛策の廃止などを株主提案したことが最近判明した、アクティビスト(物言う株主)である。

 ラウンドテーブルでのトビー氏の発言に対し、東証を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)CEO(最高経営責任者)の山道裕己氏がこう返す。

「われわれは上場企業に対し、資本コストにフォーカスし、資本効率の良い経営を考えるよう要請している。加えてディスクロージャーも向上させていきたい」

 山道氏だけではない。金融庁の井上俊剛審議官は「強い決意を持って継続的なコーポレートガバナンス改革に取り組んでいく」と表明。ラウンドテーブルの最後は、鈴木英敬・内閣府大臣政務官が「過去10年間に行った数々の改革の結果、企業の意識は大きく変化した。今後、形式から実質へと改革をさらに深化させ、真の意味での企業価値の向上を図ることが必要だ」と締めくくった。

 日本を含むG7各国政府や産学界の代表者らが出席する国際的な公式会合に、かつて「ハゲタカ」「金の亡者」とも呼ばれたアクティビストが招かれるのは極めて異例だ。あるファンド関係者は「アクティビストに市民権が与えられた歴史的瞬間だ」と評する。

 それは決して大げさな表現ではない。

 この会合は、国家がアクティビストと手を組み、株価を割安に放置する企業を狙い撃ちし始める節目となるかもしれない。PBR1倍割れ企業への改善要請はその序章にすぎず、上場企業は今年から、さらに厳しい要求を突き付けられる可能性が高い。

 次ページから、その詳細と水面下の動きを明らかにする。