儲からないのは
「理念の尖らせ方」が不十分だから

佐宗 これぞまさに「理念経営2.0」と言いたくなる、すばらしいエピソードばかりですね。ただ、こういう話をお聞きすると、気になるのは「経済性」です。理念経営についてはよく「きれいごとばかり言っていても、会社が潰れてしまっては元も子もない」ということが言われるわけですが、松尾さんは経済性と理念の優先順位をどのように考えていらっしゃるのでしょうか?

松尾 僕は完全に理念を重視しています。経済性というのは、自分たちが「世の中の体温をあげる」という理念を体現して、世の中が僕たちにその理念の実現を任せたいと思ってくれた結果なんです。

 たとえば、売上が悪くなった途端に慌ててクーポンを配るなどという行動は、経済性が目的になってしまっていますよね。そんなことをしても、理念は実現できません。順序が逆です。もしスープストックトーキョーの売上が悪くなっているのだとすれば、それは自分たちが十分に世の中の体温をあげきれていないからだ──そういう順序で物事を考えるわけです。

 七草粥の提供時に「今年も1年、健康でお過ごしください」と伝えれば、お客さんは単に「おいしかったから」という理由よりも深い理由で、また来てくれたり、人を誘って来てくれるようになるかもしれない。結果として経済性が上がるんです。自分たちが提供している価値や寄せられる期待、存在する意義をもっと尖らせて刺さるものにしていけば、お金は結果としてついてくると思うんですよ。

佐宗 なるほど。儲けがついてこないのは、「理念が十分に尖ってないから」なんですね。

松尾 そうだと思います。仕事が「数字を追うゲーム」のようになってくると、ありきたりの行動しか生まれません。そうなれば、経済性の面でもどんどん厳しくなってくる。理念を尖らせたほうが、経済性にもプラスの影響があるということは強調しておきたいですね。

 実際、七草粥のイベントで例の声かけをはじめた年には、前年の1.3倍の売上になりましたし、その翌年には3倍にまで数字が伸びたんですよ。大事なのは、これがあくまで「理念を尖らせること」に注力した結果だということです。

佐宗 すごい! 次回はいよいよ、今年の春にSNSなどで“炎上”などと騒がれた「離乳食の無料提供」のときのご対応などについて、伺いたいと思います。

【スープストックトーキョー社長に聞く】組織文化は「儀式」から生まれる。同社「七草粥の日」に起きた“予期せぬ変化”とは?

(次回に続く)