日本の通信市場は「ガラパゴス化」

 わが国企業は、そうした環境変化への対応が難しかった。わが国には1億人超の人口がある。バブル崩壊後、多くの企業経営者は相応の需要獲得が期待できる国内市場を念頭に、事業戦略を立案した。

 それによってわが国企業は、雇用や既存事業を維持した。攻勢をかけるタイミングを計る姿勢も示された。それは、利害関係者の理解の取り付けに重要だった。また、国内の消費者などとの関係を強化するために、企業は自前での設計・開発・国内製造なども重視した。

 一方、人口規模が小さい韓国や台湾の企業は、急速に海外事業を強化し、収益の得られる分野を拡大。内向き志向の強まる本邦企業との成長戦略の違いは鮮明化した。

 わが国の国土は狭く、人件費も高い。政府による民間企業のリスクテイク支援策も遅れた。IT化、国際分業の加速など、世界経済の環境変化にわが国企業が対応することは難しくなった。

 追い打ちをかけるように、07年頃から世界全体で、スマホが急激に普及した。デバイスの供給面でアップル、サムスン電子、低価格攻勢をかけた小米(シャオミ)など中国メーカーのシェアが拡大した。スマホOS市場では、グーグルのアンドロイド、アップルのiOSの寡占が鮮明化した。

ガラケーとスマホいわゆる「ガラケー」からスマホまで。携帯電話は変遷してきた(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 わが国はそうした環境変化に取り残された。NTTドコモによる海外買収戦略の失敗などもあり、ソフト・ハードウエアの両面でわが国の通信市場は「ガラパゴス化」した。国際市場での競争力は失われ、三菱電機やNECはスマホ事業から撤退した。

 16年、富士通は量子コンピューティングや光通信など、成長期待の高い分野への選択と集中のために、携帯端末事業を分社化し、FCNTが発足した。続く18年、富士通はFCNTをプライベートエクイティ・ファンドに売却した。その後、世界的な資源価格高騰や円安の進行によってFCNTのコストは急増。収益力は低下し、財務内容も悪化した。そうして23年5月末、FCNTは縮小均衡から抜け出すことができず、民事再生法を申請した。