費用は日本の「3分の1」
期間は最短で「1年」
「海外で自分の夢に挑戦したい人にお勧めできる」。カナダ在住の日本人パイロットで、登録者1万人のYouTubeチャンネルも持つKEI氏(SNSのハンドルネーム)は、カナダへの航空留学の魅力を語る。カナダでは30代はもちろん、40歳前後までは挑戦が可能だという。
海外と聞くと、多くの人は英語の心配が頭に浮かぶだろう。KEI氏によると、訓練では「日常会話レベルは必要」。だが、航空英語では専門用語をルール通りの文法で無線通信するため、ネーティブレベルの英語力は必ずしも必要ないという。
下表を見ながら免許取得に必要な費用や期間を解説していく。
必要な免許は全部で4種類。最初に取るのは「自家用操縦士(PPL)」で、費用はおよそ200万円。期間は季節により変わるが約8~12カ月が目安だ。PPLの取得で、実際に教官以外に人を乗せて飛ぶことが可能になる。
次に取るのがプロ免許の「事業用操縦士(CPL)」。費用はおよそ300万円、期間は約8~12カ月。CPLの取得で、法律上は実際に雇われて給料がもらえるようになる。
単発エンジンの機体から、双発など複数のエンジンを搭載した機体を操縦できるように切り替える免許が「多発限定(Multi)」だ。必要な費用と期間は、およそ50万円と約1カ月。
最後に取得するのが「計器飛行証明(IFR)」。雲の中などの視界が確保できない状況で、計器だけを見て操縦することを学ぶ。およそ150万円で約2カ月かかる。
ここまででパイロットとして就職するためのライセンスを一通りそろえたことになる。費用の合計は約700万円だが、これは日本と比べると3分の1程度と格安だ。期間は季節によって左右するが、約20カ月。「スケジュールを詰め込み、最短で1年で終わらせる人もいる」(KEI氏)という。2年半が目安の日本のフライトスクールよりも、圧倒的に短期間で取得できることも大きな魅力だ。
資格取得後のファーストキャリアは「教官職が王道」(KEI氏)。教官を務めるために必要な「教育証明(IR)」を取得し、教官として自身が卒業したフライトスクールで教える人も多いという。IRの取得に必要な費用と期間は、およそ120万円と約8カ月だ。
教官職が王道である理由として、KEI氏は「大型機を運航する定期航空会社にいきなり採用されるパターンは、飛行経験の観点から実質的にほぼない」ことを挙げる。小型機から大型機へとキャリアを積み上げていくのが海外では一般的だからだ。
2年ほど教官として勤務し、飛行時間を1000時間以上積んだ後、晴れて航空会社への応募が可能となる。近年は人手不足のため、500時間でも応募が可能な航空会社もあるという。
教官職として働く間の給料は「年収250万~350万円」(KEI氏)。高給のイメージがあるパイロット職とはいえ、キャリアの駆け出しの頃から稼げるわけではない。
一方で、航空会社に採用された暁には、「会社によるが年収600万~700万円となり、機長になれば3000万円も目指せる」(KEI氏)。キャリアを積み上げることで、世界水準の高給を目指せるのもカナダの魅力だ。
留学準備はビザとスクール選び
カナダはビザの取得がしやすい
続いて、カナダで実際の操縦を学ぶ前段階、日本での留学準備にも触れておこう。入国前にはフライトスクール選びや入念な書類の準備が不可欠だ。スクールについてはカナダ政府の指定学習機関(DLI)に選ばれているスクールしか外国人への入学許可証を出せない点に注意したい。またビザの取得も不可欠。特にビザの取得についてKEI氏は「手続きが複雑なため、プロのビザコンサルタントに依頼することをお勧めする」と言う。
滞在するためだけでなく、生活費の面でもビザは重要になる。現地では「家賃や食費などで月15万円ほどの生活費を見ておくことをお勧めする」(同)。KEI氏自身も、訓練時間以外には週3日20時間ほど、ラーメン店でアルバイトをして生活をつないだ。生活費を現地で稼ぐためにも、入国前にビザなどの書類を入念に準備することが重要だ。
将来的にカナダの航空会社で働くには、永住権が必要な点にも注意したい。永住権を取得するためには、カナダ国内で教官職など一定期間の就労経験を積み、また英語の試験も受ける必要がある。
とはいえ、ビザや永住権の取得難易度の観点から「米国やオーストラリアなどと比べて日本人でも挑戦がしやすい」(KEI氏)。
KEI氏は、カナダへの航空留学について「世界各国から同じ境遇の人が集まり、切磋琢磨できる」と魅力を語る。海外でパイロットに挑戦するなら、コスパ・タイパ面で“最強”のカナダが有力な道になりそうだ。
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