騒動の結果、もたらされた支援
佐宗 あの声明は、御社が日頃から理念について思考を積み重ねてきた「蓄積」を感じさせるものでした。だからこそ、あれを読んだ人たちも「この会社の人たちは、等身大で信じていることを、そのまま嘘なく伝えている」と素直に受け止められたんだと思いますね。
ちなみに、声明を出された結果、どんなことが起こったかについてもお聞きしたいです。
松尾 声明を26日の昼ぐらいに発表して夜にTwitterを見たら、またしてもたくさんの書き込みがありました。それこそ、佐宗さんの「これぞ理念経営」というツイートも拝見しましたし、「一生応援します」「もともとこういう姿勢だと知っていました」などと好意的な声で溢れかえっていて、思わず涙してしまいました。
佐宗 まさしく「禍転じて福と為す」ですね。売上などへのプラス影響もあったのでしょうか?
松尾 その時点で完全に潮目が変わったと思います。声明を発表した日の夜から、ECサイトの注文が大きく増えはじめ、「炎上」前と比べると280%くらいまで売上が伸びました。ちょうど母の日ギフトが動く時期でもあり、応援の意味で購入してくださった方も多かったと思います。じつは店舗の売上も、18日以降はずっと110~130%くらいの水準で推移していました。
さらにうれしかったのは、声明を出した翌朝に、僕のデスクの上にメッセージカードが一枚置かれていて、「このたびの対応ありがとうございました。みんな引き締まる思いです。私たちも、これからいっそうがんばっていきます。社員一同」と書かれていたことです。そこでまた涙、でしたね(笑)。
佐宗 素敵ですね! 社内でもまさに「体温をあげる」行動が生まれているということだと思います。今回の一連の件は、松尾さんをはじめ、スープストックトーキョーのみなさんが、日頃からつねに「世の中の体温をあげる」という理念を第一に考えてきた結果だと思います。その蓄積があったからこそ、一部からのネガティブな声があっても、ぶれない姿勢を貫くことができたのだなと。
松尾 本当にそう思います。経営者・幹部でも、社員・アルバイトでも、みんな同じ人間で、能力が飛び抜けて変わるわけではありません。だからこそ、理念のもとに人が集まって、日頃からみんなでそれについて考え、それを体現していくプロセスが重要なんです。それを実践するときに、佐宗さんの『理念経営2.0』はものすごくたくさんのヒントをくれる本だと思いますね。
佐宗 ありがとうございます! 最後に、これはみなさんに聞いているんですが、この『理念経営2.0』という本は、これからどんな人に読んでもらえばいいと思いますか?
松尾 これからの時代は、やはり一人ひとりがまずは自分自身を見つめて、いかに自分の哲学に近いところで働くかが大事になってくると思います。そういう意味では、経営者や幹部だけでなく、就活中の学生さんや転職を考えている人などにも、ぜひ読んでもらいたいですね。究極的には「自分を見つめ直すこと」にもつながる本だと思いますから。
(対談終わり。次回からはメルカリCHRO木下達夫さんとの対談をお送りする予定です)