その道の専門職で黙々と知識を蓄える人
他方で「黙々と知識を蓄える人」もいる。この人は、すでに豊富な経験と深い知識があり、「すぐに講演する人」が足元にも及ばないような知見を保有している。しかし、それを外部に披露しようともせず、さらに知識を深め、より高い成果を出そうとするのである。伝統あるメーカーの専門管理職などにはこのような人たちが大量にいる。
そもそも会社が地味で社会一般へのアピール力が弱いこともあって、彼らは外部の講演などでアピールをすることが少ない。かつてはビジネスジャーナリズムがそういう人を発掘することもあったが、今やメディアもネットで調べる時代だから、何かを発信していない人は発見されようがない。
しかしながら、彼らは自分の業務領域に対して深い探求心を持ち、より一段上の理解と洞察を追求し続ける傾向がある。すでに十分な経験と知識を持っているにもかかわらず、(本来は聞く必要のない)ビジネスタレントの話であっても真面目に聞く。常に自己反省や自己評価を行い、自身の強みや改善点を見つけ出すことに熱心だ。第三者の視点やアドバイスを積極的に受け入れ、より良い結果を得るために自己を改善しようとする。
というのも、このような人はきわめて高い確率で特定の一社で長く働き続けており、自分の経験は自社だけで通用するものであり、その知識や経験が普遍的ではないのではないかという自覚がある。
そこで、世の中の普通、あるいは他社の状況、先進事例を知ろうとしていろいろな人の話を聞くのだ。しかし、実際には、当人が教えを請うている相手より、はるかに深い知見をすでに有しているのである。
報酬に関しても、その会社の報酬の標準レベルの額をもらっているだけである。会社には、その人のすごさが知られておらず、人材市場に出ても、普通のエージェントにはその能力の高さが理解できないから、転職先候補企業からも決して特別な評価を受けない。
「すぐに講演する人」、すなわちビジネスタレントの中にも、話がうまいだけでなく実績も能力も十分な人も多くいるし、勘違いによって社会に見出された人であっても、そのチャンスを物にして、場数を踏むうちに、実際に専門分野に詳しくなって、それなりのレベルに達する人もいる。
かたや、黙々と知識を蓄える人の中にも、成果を出すことが目的ではなく、その分野の物知りになることだけが目的のような人もいるので、一概には言えないのだが、一方では過大評価が、他方では過小評価がまかり通っているのである。