日本で「賃上げ」が進まない
背景にある雇用システムの問題

 次に賃上げを考える。岸田内閣は新経済対策で「賃上げした企業に対する優遇税制の拡充」などを打ち出している。だが、賃上げは安倍晋三政権期以降、何度取り組んでも成功したことがない。

 一方、海外企業は賃上げに熱心だという。内閣官房がまとめた「賃金・人的資本に関するデータ集」によれば、1991年から2019年の日本の賃金上昇率は1.05倍である。一方、英国は1.48倍、米国は1.41倍、ドイツ、フランスは1.34倍だ。

 日本企業が賃上げできない理由は「生産性の低さ」で説明されることが多い。その一因は「年功序列・終身雇用制」だろう。

 海外企業では「ジョブ型」の雇用制度が主流であり、パフォーマンスの低い社員が「社歴が長い(年齢が高い)」というだけで高給を得られるケースはほぼない。

 ジョブ型雇用の企業では「ジョブ・ディスクリプション(業務内容を記した書類)」のもと、社員の職務内容が明確化されている。そして年齢を問わず、同レベルの業務を担う社員には同水準の給料が支払われている。たとえ若くても、高いレベルの職務を遂行できるメンバーは高給取りとなるが、その逆もまたしかりである。

 中途採用においても、企業は自社が求める職務内容を明確に定義し、その仕事に適した人材を見極めて採用する。「適性がない人材を誤って採用し、すぐに異動させる」という事態が起こりづらい制度設計になっている。もし社内異動を行う場合は社内で公募をかけ、社員が自らの意思で応募可能にするのが一般的だ。

「同一労働・同一賃金」との相性も良く、同じ労働をしていれば、正規と非正規の不合理な待遇差は生じづらい。だからこそ、優秀な人材はよりよい待遇を求めて企業を渡り歩き、労働市場は競争的になる。企業は賃上げをしないと人材を引き留められなくなる。

 一方、多少は変わってきたとはいえ、日本では年功序列・終身雇用制がいまだ根強い。労働者は同じ会社で長年働き、勤続年数が長いほど高給を得られる。若手社員はどれだけ成果を上げても給料は低いままだ。欧米に比べると、労働者の転職も少ない。

 そして、日本では「メンバーシップ型」の雇用慣行のもと、職務ではなく「会社」にマッチする人材が育てられる。個人の適性や得意不得意を問わず、社員は定期的に部署異動の対象になり、オールラウンドな人材になっていく。そのためITなど一部の業界を除いては、とがったスキルが評価されて「給与大幅アップでの転職」を果たすような人材は育ちにくくなる。

 さらに「同一労働・同一賃金」も見掛け倒しになりやすく、依然として正規と非正規の不合理な待遇差が生じている。こうした雇用制度の差が、生産性の差を生み、ひいては賃金上昇率の差につながっているのではないだろうか。