「私の全部が嫌い…」
と言った相談者
ありのままでいいって、よく言うじゃないですか。私、そう思えないです。
ありのままでいいどころか、自分のことが嫌いだし、嫌いを通り越して、気持ち悪いとさえ思うことがあります。
だけど、こんなふうに思ってしまうのは、すごく辛いし、苦しいです。
だから自分のことを好きになってあげたいと思うのに、どうしても好きになれません。
別のカウンセラーさんには「あなたは卑屈すぎる。もっと前向きに考えて、自分に自信を持ったほうがいい」と言われましたけど、自分のことが嫌いなのに、どうやって自信を持てというのでしょうか?
相談者Aさんは、自分のことが嫌いだと繰り返し伝えてきました。
自分の何が嫌いかと質問すると、「何がとかじゃなく、全部。こんな私が、生きていていいのかなと思う」と答えます。
そこで私は、Aさんの幼少期の家庭環境について詳しく話を聞くことにしました。
このように存在レベルでの自己否定が見られる場合は、幼少期の親との関係で深く傷ついていることが多いからです。
あからさまな無視や虐待はもちろん、親から愛されていないのでは、親にとって自分は邪魔なのではと感じるようなことがあると、子どもは「自分はいないほうがいい」「自分は愛される存在ではない」という思いを強く抱きます。
本来ならば、一番認めてほしい人(親)に否定され、受け入れてもらえないと感じることは、「生きる価値がない」と突きつけられるようなもの。
親でさえありのままの私を愛してくれないのに、ほかの誰かが愛してくれるわけがないと苦しみます。
決して大げさな話ではなく、子どもにとって親はそれほど大きな存在なのです。
次は、Aさんが語った内容です。
父親の悪口を言う母親から
刷り込まれた自己否定
「母は、私だけが大切だと言ってくれますが、父のことはしょっちゅう悪口を言っています。
私自身、父が不倫をしたと知ってからは、父のことを気持ち悪いと思っています。母と同じ気持ちです。
実は私、父に仕草や顔が似ているとよく言われます。つまり母が大嫌いな父に、私は似ているということで……。
だからなのか、私はそんな自分が気持ち悪いと思うし、父に似ている自分を好きだとは思えないのです」
Aさんがここまで自分を嫌うようになった原因は明らかで、母親が父親(夫)の悪口を言い続けていたことでした。
夫が不倫をしているということを誰にも言えない母親は、Aさんに夫の悪口を言うことで、なんとか気持ちを保っていました。
Aさん自身も、「母親は、私のためを思って離婚をせずに頑張ってくれた。だから、悪口くらいは聞いてあげなければと思った」と責任を感じていました。
ですが、母親が父親の悪口を言うことは、子どもであるAさんの否定につながります。
母親にとって父親と子どもは別物だとしても、子どもにとって父親は自分と血がつながった存在だからです。
これは母親に限った話ではなく、父親が母親の悪口を言う場合や、祖父母が親の悪口を言う場合も同様です。
子どもは間接的に、自分自身の存在を否定されたように感じてしまうのです。
親の言動は
子どもに大きく影響する
両親には、Aさんを苦しめるつもりはなかったのかもしれません(意図的に子どもを苦しめるために父親の悪口を言うケースもありますが、今回の場合は該当していません)。
母親にも何か事情があったのかもしれませんし、そもそも父親が悪いという意見もあるでしょう。
ですが、ここでお伝えしたいのは、誰が悪いとかそういう話ではありません。
どのような事情があったとしても、親の言動はこれほどまでに子どもの考え方に影響を与えてしまうということなのです。
親に悪気がなくても、親にそのような意図がなくても、子どもの心が深く傷ついてしまうことがあります。