慶應義塾の「最高幹部」評議員の新メンバーが今秋に4年に1度の総選挙で選ばれた。かつては熾烈を極めたOB同士の集票合戦は鳴りを潜める一方、「4年に1度の大チャンス」とばかりに、ビジネスや取引に役立てようと集票活動に励む企業の動きもある。特集『最強学閥「慶應三田会」 人脈・金・序列』(全17回)の#10では、慶應OBですらないビジネスマンをも駆り立てる選挙戦の実態に迫った。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
メガバンク役員候補に「草の根」支援
OB同士の集票合戦は鳴りを潜める
常任幹事が評議員選挙の候補になったので、ぜひ協力してほしい――。今年6月、慶應義塾の体育会庭球部OB宛てにそんな内容の一斉メールが流れた。
評議員とは、慶應義塾の最高議決機関である評議員会のメンバーである。トップである塾長の選任すら評議員の承認が必要で、過半が4年に1度の“総選挙”で選ばれる。
一斉メールは、4年ぶりとなる今年の評議員選挙に立候補した庭球三田会幹部に対して支援を呼び掛けたものだ。その幹部とは、三井住友フィナンシャルグループ(FG)の工藤禎子取締役執行役専務である。
これまで慶應義塾の評議員は大企業の男性首脳が多数を占め、多様性を欠くとの批判もあった(本特集#1『慶應義塾「最高幹部」にマッキンゼーや楽天が進出!4年ぶり“総選挙”で勢力図激変』参照)。メガバンクで数少ない女性役員の工藤氏は、今回の選挙では「目玉候補」の一人といえる。
だが、選挙戦で、出身母体の三井住友FGが工藤氏のためにグループを挙げて大々的に集票活動をした形跡は全くない。むしろ、冒頭のような「草の根」支援が主流だったのだ。
慶應義塾の評議員選挙は、大手企業による激しい集票合戦が繰り広げられる場だった。慶應OBの「塾員」は、自らが所属する企業の「親分」を最高幹部に押し上げるべく、票集めに血道を上げてきたのだ。
こうした選挙戦の過熱ぶりは、メディアでも大々的に取り上げられてきた。慶應義塾の当局は「品位ある選挙戦を」と繰り返し呼び掛け、長老格の評議員の中には、自社に票集めを禁じた者もいるという。この結果、近年は「品位なき」集票バトルは鳴りを潜めている。
一方で、評議員選挙を4年に1度のビジネスチャンスと捉える企業もある。どういうことか。例えば、取引先に対して集めた票を融通し、「見返り」としてビジネスを有利に運ぶのだ。
次ページからは、金融機関や鉄道会社、不動産会社などの事例を引き合いに、近年の選挙戦の様子を明らかにする。他大学出身のOBすらも駆り立て、票があたかも「袖の下」のようにやりとりされるなど生々しい実態も示す。