世界の諜報員は
3月に戦争の兆候を掴んでいた
イスラエルは、「モサド」という情報組織を持っていますが、モサドは日本に常駐していません。 アメリカほどの大国であれば別ですが、イスラエルのような小国になると全ての国に諜報員を置くことはできないので、対象国を絞る必要があります。東アジア地域ではもちろんあの国です。その国に モサドが常駐していて、必要な際に日本に派遣されるというような運用がされていま した。これはあくまで私が現役の公安警察官だった時の話ですが…。
私は警察をやめた今でも公安時代のつながりで世界各国の諜報員たちと情報交換をしています。世界の諜報員たちの間では、2023年の3月あたりからしきりに 中東、特にパレスチナやハマスという言葉を頻繁に聞いていました。私は、2023年もロシアとウクライナの戦争がメイントピックになるだろうと考えていました。また、イスラエル・パレスチナ地域は世界の火薬庫のような場所で、これまでも死者の出るほどの衝突を繰り返していましたから、ウクライナやロシアを超える話題にはならないと踏んでいました。しかし、世界の諜報員たち、ひいては各国の上層部はイスラエル・ガザ戦争の予兆を掴んでいたのです。しかも、ある程度コンセンサスが取れていたようです。
ただし、一つだけ諜報員たちの間で分析が割れるポイントがあります。それは、戦争のきっかけとなった「ハマスの侵攻をイスラエルがなぜ防げなかったのか」という点です。
第三国の諜報員がハマス側の異常な動きを察知していたくらいですがから、当事国であるイスラエルのモサドやイスラエル国防軍も警戒していたはず。実際に、イスラエルとパレスチナは互いに諜報員やスリーパー(潜入工作員)を送り込んでいるので、互いの手の内は常に筒抜けの状態にあります。それなのに、壁を越えられて大量の人質まで取られたのは明らかな失態と言えます。相手に軽くジャブを打たせてカウンターパンチを狙っていたら、クリーンヒットをもらってしまったのか。それとも、本当に油断していて不意打ちを食らってしまったのか。世界のインリジェンスたちが分析をしている最中です。
現段階での私の見立ては、前者。つまり、軽く打たせておいて100倍返しをしようという狙いが外れて、ハマスの大きな一撃を食らったというものです。ネタニヤフ首相は極右の思想を持っているので、ハマスをせん滅したくて仕方がなかった。加えて、国内の支持率も低く、権力基盤が弱いので、不満の目を外に向けたい。イスラエル側に戦争を起こす動機が十分にありました。現に地上侵攻や停戦に関して、国際社会の言うことを無視している点でも、戦争をすることに対する強い意志を感じます。事前にあれほど大胆なハマスの侵攻をキャッチできなかったのは、諜報員と政府の伝達が遅れたか、失敗したことが原因ではないかと見ています。
イスラエルとハマスの戦力差を考えると、ハマスがなんの後ろ盾もなく攻め込んだとは考えづらい。イランやレバノンのヒズボラといった周辺の反米・反イスラエルのイスラム勢力とは、事前に話をつけていたはずです。こうした国や組織が絡んでいるのはほぼ間違いないのですが、どの程度絡んでいるのか、というのが分析の対象となっています。