古賀 その比較から対象物の独自性が見えてきたり、輪郭が明らかになってくる。だから、そこから着想を始めることが多いんです。今回で言うと、まずリモコンをじっと見て「ボタンがいっぱい並んでいるな」というところから、反対にボタンが何ひとつない、ツルツルのスマートフォンと比べてみようと考えました。「何がどう違うんだろう」と比較して、たくさんのボタンがあるリモコンのほうが見た目は多機能だけれども、実際にはスマートフォンのほうがずっと多機能で……というふうに考えていきました。

でも、ただ比較するだけだと「そうだよね」で終わってしまって、発見がない文章になっちゃう。そこで「多義的」というキーワードを見つけて、「多義的な方言」として「しゃあしい」をつなげたらどうかなと思ったんです。

――なるほど。

田中 僕がイラストレーターだったら、500個くらいボタンがあるリモコンを挿絵に描きたくなります。

古賀 毎日のnoteもそうですが、僕は書きながら自分で「あー、そうなんだ!」っていう答えを見つけているんです。あらかじめ持っている答えを書いているんじゃなくて、書きながら見つけた答えを書いていく。それが僕の文章という感じがします。

田中 これ、一見トリッキーだけど、古賀さんはすごく論理的に書かれているんですよ。僕とは真逆のアプローチ。まずはリモコンという物体をじっと観察して、リモコンというものの本質はこうであろう、リモコンの対極にあるものはこうであろう、と語る。そして、対極にあるものと似ているのは博多弁の「しゃあしい」であろう、と結びつけて、それを冒頭に持ってきている。

まずは物事をしっかりクローズアップしてから、博多弁という古賀さんの個人的な視点・トピックに引きつけて考えているんですよね。ここまでにお話ししてきたことや、『さみしい夜にはペンを持て』に書いてあることをちゃんと実践されてはるなと思いました。

人に文章を教えるベストセラーライター2人に「おもしろいエッセイ書いてください」と無茶振りしてみた『さみしい夜にはペンを持て』古賀史健・著

――同じお題でもここまで違うエッセイになるのかと驚きました。お二人の体の中にあるものや、使いやすい言葉、物の見方などが違っていて、そういう自分のフィルターを通して書かれているからこそ、オリジナリティのある文章になっているんだと感じました。

古賀 そうですね。同じものをお題にしていても、こんなにも内容も方向性も違うものが出てくる。それはやっぱり、それぞれ読みたいものが違うからですよね。泰延さんと僕では、「自分はこんな文章が読みたい」っていう感性が違う。だから、リモコンを見るときの視点も、リモコンの描き方もまったく違ってくるわけです。

田中 わたしが最後にダジャレを入れて終わりたいとか、まさにそれです。気の利いた編集者さんなら、最後の一文は絶対取りますからね。

古賀 校閲さんが入ったら消されるでしょうね(笑)。

人に文章を教えるベストセラーライター2人に「おもしろいエッセイ書いてください」と無茶振りしてみた

田中 『読みたいことを、書けばいい。』でもなんべんも書かれました。僕のギャグに対して「これはおもしろいのでしょうか?」とか、「このギャグは3度も出てきますが大丈夫でしょうか?」などと。

古賀 今度から泰延さんが出す本には、校閲さんからの指摘をそのまま印刷したらどうですか?

田中 それは絶対おもしろい。やりましょう。50ページくらい増えそうだけど。

――校閲さん、びっくりしそう(笑)。これで、取材はすべて終わりです。ありがとうございました。

古賀 ありがとうございました。

田中 ありがとうございました!

人に文章を教えるベストセラーライター2人に「おもしろいエッセイ書いてください」と無茶振りしてみた

人に文章を教えるベストセラーライター2人に「おもしろいエッセイ書いてください」と無茶振りしてみた

(連載おわり)

第1回 ベストセラーライター2人が語る「AIに取って代わられる文章」の特徴
https://diamond.jp/articles/-/331527

第2回 人の心を動かす「身体性のある文章」はどうすれば書けるのか?
https://diamond.jp/articles/-/332921

第3回 自分の「書きたい」と他人の「読みたい」をつなぐもの
https://diamond.jp/articles/-/332924