2023年のスタートアップシーンや投資環境はどのように変化すると予想しますか。
短期的な上場等のイグジットが期待しにくい環境下において、短期的な事業の仕上がりよりも、長期的に時間を費やしてその結果圧倒的にスケールするという“壮大な飛距離”が期待できる事業に対して、注目度がより高まってくると思います。投資観点で言うとIRR(内部収益率)よりも大きなMOIC(投下資本倍率)を狙いに行く、必然的にそういったスタンスに重心が寄ってくると思います。
例えば私の主な投資分野の1つであるSaaSにおいても、通常のアプリケーション的な単なる問題解決型のソリューションではなく、ある意味OS的な業界の事業オペレーションのあり方を刷新するような、“産業に新たなレイヤーを差し込む”ことを目指す企業にとっては絶好のタイミングだと感じます。
具体的には、建設や製造業といったレガシー産業やリテール、住宅産業、中古車市場や娯楽産業といった、30年前に一気にシステム刷新されたものの、その後変化に乏しい旧来型のオペレーションが大幅に変わっていく産業に新しい契機が生まれていると感じています。またFintechはこれまで既存産業に寄り添うかたちが主流でしたが、既存の金融業界を破壊・再構築していくプレイスタイルが生まれうる機運を感じ、それが実現できたとき、本当の意味でのスタートアップ業界の第二幕の幕開けになるのではと期待しています。
2023年に注目する・盛り上がると考える領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。
・Web2とWeb3の間
Web2は古く中央集権的(で解体されるべき)、Web3は新しく民主的(で構築されるべき)、そういった違いや印象は事実ですが、一方でWeb2は社会浸透の実績があり、Web3は現状仮説検証中というステータスです。
2023年はその両者の振れ幅の中で、ある種いいとこ取りのような現実的な事業モデルが登場してくると思っています。例えば具体的に言うと、3rd Party Cookieが使えなくなることで事業会社としては1st Party Dataを貯めていく必要がありデータの覇権を取り戻す必要があると、そういった現実的なコンテキストにおいて、Web3の本質が仮に“オーナーシップ”だとしたら、その趣旨をなぞらえたエッセンスが従来のWeb2的なサービスにも一定の影響を及ぼし、事業的にも面白い現実的な事業コンセプトとして進化を遂げ、社会に受け入れられていくのだと思います。
あとは、ここ3−4年ほど継続的に勉強している不動産・建築テック、HRテック、その他伝統産業のVertical SaaS、D2Cに引き続き注目していきたいと考えています。