職場にいる「浅い人」と「深みのある人」の決定的な違いとは?写真はイメージです Photo:PIXTA

加齢によって、気力、体力ともに衰え、若い頃のように無理はきかなくなっていく。そうして失ったものがある一方で、得られるものがある。それが「深み」だ。周囲から一目置かれる人には“深み”があり、これは年齢を重ねてこそ得られる最高のギフトでもあるという。そもそも深みとは何か、その本質に迫る。本稿は、齋藤孝『「深みのある人」がやっていること』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

200人が考える「深みのある人」の特徴

「あの人には深みがある」とは、たいてい褒め言葉として使われます。「深い話ができる」「読みが深い」なども同様でしょう。では実際、「深い人」とはどういう人なのか。そこで、40歳代以上の200人を対象として、「人間の深みはどこに出ると思いますか?」というアンケート調査を行いました。その結果を分析しながら、まずは「深い人」の実像を探ってみたいと思います。

 アンケートで得られた回答の一つが、「引き出しの多い人」。例えば何か問題が起きたとき、解決方法をいろいろ繰り出せる人は、たしかに「深い」感じがします。ではどうすれば引き出しを増やせるのか。身も蓋もない言い方をすれば、それは人生経験を豊富にすること。さまざまな事例が頭に入っているから、どんな事態に直面しても、パターン的に捉えて「こうすればいい」と思いつけるわけです。言い換えるなら、引き出しの数を増やしていくことが、「深み」のある人間になることでもあります。いくつもの修羅場をくぐり抜けるというのも一つのパターンですが、そればかりでは辛すぎる。自ら何かにチャレンジする経験も、引き出しを増やすはずです。

 失敗や敗北の経験のほうが、得られるものは多いでしょう。どこに敗因があったのかを検証することで、ならば次はこうしてみようという目処が立つ。その一つ一つが、貴重な引き出しになるわけです。

 例えば、プロ将棋の世界には感想戦というものがあります。勝敗が決した後で対局を振り返り、どの場面でどう指せばその後の展開はどう変わったか、お互いに意見を出し合いながら検証するわけです。死力を尽くして戦った後で疲れているでしょうし、しかも敗者にとっては屈辱の時間のようにも思えるのですが、実はそうではないらしい。感想戦は、敗者がなぜ負けたのかを納得するために行うもので、勝者はそれにとことんつき合うのが礼儀なのだそうです。

 その検証が引き出しの一つに加えられることは間違いありません。またすべての棋士がこれを行うことにより、将棋界全体の底上げにもつながっているのだと思います。しかしどれほど研究を深化させても、対局のたびにかならず一方が敗者になります。その厳しさに耐えることが、プロ棋士の条件なのでしょう。

 一般的な仕事の場合、勝敗がさほど明確に決まることはありません。前例どおりにこなしていれば、なんとなく丸く収まることが多いと思います。しかしそれでは引き出しは増えないし、したがって深みも出ません。変化の激しい昨今にあって、いつの間にか時代に取り残されることにもなります。