「力点」を支えてくれる
パートナーの存在
先ほど、寄り添ってくれるパートナーがメンタルの安定をもたらすのだと述べました。
それだけを見ると、「じゃあ、結婚すればいいのか?」と思ったかもしれません。
ただ、現実的には、結婚という制度そのものは、メンタルの安定とはまったく関係がないということが精神医学的にわかっています。
もちろん、いい相手に恵まれたら、健やかな日々を送れるでしょう。
しかし、「結婚したせいでメンタルが安定しなくなった人」というのも、あなたの周りですぐに思いつくのではないでしょうか。
つまり、パートナーというのは、結婚制度だけのことではないのです。
充実して幸せな独身生活を送る人はいます。
逆に、結婚しているのに孤独を感じて不幸せな生活を送る人もいます。
じつは、むしろ独身でいる人のほうが、家族や友人、仕事の同僚らとのつながりが強く、孤独を感じにくいことが研究によって明らかになっています。
そして、結婚生活が長い人ほど、パートナーや子どものことを優先させるため、友達が少なくなり、仕事の人間関係も希薄になる傾向があるのです。
「結婚して変わっちゃった」「こんなはずじゃなかった」という不幸な結婚生活になってしまったら、それは自分のメンタルを安定させることにはなりえません。
メンタルの安定のためには、結婚という制度にとらわれず、独身であろうが結婚していようが、「力点」に一緒に力を入れたり支えてくれるパートナーが必要なのです。
パートナーに「必要な要素」とは?
「孤独」は人間にとって、肥満やタバコのように害があることがさまざまな研究によって明らかになっています。
「孤独」を感じている人ほど、人生に意義が見出せなくなったり、病気になりやすく、体に悪い影響を受けていると言われています。
そんな「孤独」を感じさせず、支えてくれるのが本当のパートナーです。
本当のパートナーを見つけるためには、3つのポイントが大切です。
● 物理的な距離が近いか、気軽に会いに行けるか?(近接性)
● 価値観や考え方が近いか、話題に困らないか?(類似性)
● 実際に会う回数が多いか、何度も会っているか?(繰り返し)
という3つです。
この3つがないと、「力点」を一緒に支える力も弱まってしまうのです。
「近接性」とは、要するに「距離」が近いということです。
人は物理的に近く感じる人ほど、親近感を感じるようにできています。
実家に久しく帰らなくなると、たとえ両親であったとしても「あれ、こんな感じだったっけ?」という違和感が生まれます。
遠距離恋愛のカップルも、距離が遠くなるほど破局しやすくなります。
学校を卒業すると、仲が良かった友達との関係も希薄になり、話も合わなくなっていきます。
「類似性」とは、価値観や好きなものなど、「感性」が近いかどうかです。
一緒にいて疲れないか、違和感を感じないかなどが大事です。
よく知らない人同士だと、関係を深めるのにも苦労して、話題にも困り、沈黙が生まれてしまいますよね。
たとえ勢いで結婚をしても、あまりに感性が違いすぎると、衝突が増えたり、一緒にいることにストレスを感じるようになってしまいます。
「繰り返し」とは、会う「回数」が多いかどうかということです。
人はたくさん会えば会うほど、親近感を抱くようにできています。
テレビのCMなどで繰り返し同じ商品を見ていると、無意識にその商品への親近感が生まれ、信頼感が高まります。
同じように、職場や学校で何度も会うと、気づかないうちに親近感が生まれ、愛情へと発展しやすくなるのです。
「繰り返し」には物理的な距離は関係せず、SNSのつながりなどでも、親近感を覚えます。
職場でまったく話さない人より、SNSで「いいね」を押してくれる人のほうがストレスを和らげてくれますよね。
ただし、「繰り返し」には、好きな人はより好きに、嫌いな人はより嫌いになるという効果があります。よって、「近接性」と「類似性」が揃った上で、さらに「繰り返し」をおこなうことが大事なのです。
これら3つをクリアして、自分に「合う」と直感的に感じられる相手が、あなたの孤独感をなくしてくれる、理想的なパートナーです。
そのパートナーは、もちろん異性に限りません。両親や兄弟姉妹などの家族、同性の相手、飼っているペットなど、孤独感を消してくれる存在であれば、「力点」を支えてくれます。
理想的なパートナーとの出会い方
それでは、理想的なパートナーに出会うには、どうすればいいのでしょうか。
精神科医として、さまざまな人を見てきましたが、共通するのは、
「同じような趣味同士の人とつながる」
ということです。
コミケに集まるオタクの人たちも、性格は社交的な陽キャの人ばかりではありませんよね。
むしろ普段はあまりしゃべらず、友達付き合いは消極的な人が多い印象です。
それにもかかわらず、イベントなどで「好き」が同じ人同士で集まると、会話が弾んだり、仲良くなれたりします。
「類似性」を満たせる場所に行くことで、出会いは生まれやすくなります。
あとはそこから、「近接性」「繰り返し」を満たせる人と出会えばいいのです。
恋愛においても、マッチングアプリが主流になりました。
そこでもやることは同じです。
自分と同じ「好き」が共通点としてあること。その後、実際に会ってみて相性をみるという順番です。
「思い込み」は捨てましょう
ここで大切なのは、「自分にはパートナーなんて『絶対に』できない」と、ネガティブな思い込みをしていないかどうかに気づくことです。
人は、過去の出来事を変えることはできませんが、「苦手意識」はこれからの考え方次第で変えることができます。
かくいう私自身も、それほど友達が多いほうではありません。
むしろ、いい思いをしなかった交友関係のほうが多いかもしれません。
しかし、それでも新たな出会いを拒絶することはしません。
世界中の人間すべてと仲良くなれる人なんていません。人と人は、必ず相性があります。
だったら、あなたを支えてくれるパートナーも、どこかにいるはずなのです。
それを信じて、自分一人でストレスに対処し続けようと考えないことです。