どうすれば「作用点」にかかる力を弱くできるか
ここで1つ、ストレスについての質問です。
「ストレスはゼロのほうがいい。『はい』か『いいえ』のどちらでしょう?」
そう聞かれると、「はい」と答えたくなるかもしれません。
しかし、ストレスは「やりがい」「生きがい」を生み出すものでもあります。
それらは、人間にとっての達成感や自信を生み出しますよね。
逆に、ストレスがまったくゼロということは、空虚感を生んでしまいます。
もし、家の中で一日中を過ごし、食料も何不自由なく与えられたらどうでしょう。
まったくストレスを感じない環境にい続けてしまうと、人は病んでしまうということがわかっています。
ストレスは栄養と同じで、ゼロでもダメだし、過剰に取りすぎてもダメなのです。
ストレスを「軽く」するアイデア
さて、ストレスを少なくするには2つの方法が考えられます。
1つ目は、「物理的にストレスを減らすこと」です。
ストレスは筋トレのダンベルのようなもので、いきなり100キロのダンベルを使っても持ち上がりません。
自分にとって「ちょうどいい重さ」にすることが大切です。
たとえば、同じ仕事でも「通勤時間にかかるストレスを減らすだけ」でも、ストレスが軽減されることがわかっています。
メルボルン大学の研究によれば、職場までの通勤時間が長い人ほど、体を壊しやすいことがわかっています。
また、ニュージーランドの金融サービス会社がおこなった実験では、給与を維持したまま週休2日制から週休3日制に切り替えると、生産性が約20%近く向上し、ストレスレベルも軽減されたそうです。
このように、仕事におけるストレスは、少なくする工夫がまだまだあるでしょう。
2つ目の方法は、「ストレスと反対の方向に作用させること」です。
イラストにすると、下のような感じです。
心の重さは負のストレスによって生じていますが、心を軽くする「風船のような正のストレス」によって、打ち消されています。
テコがうまく働かなくて心が安定しなくても、「正のストレス」によって負担を減らすことができるのです。
それでは、「正のストレス」とは何でしょうか。
それは人によって異なるので、「正のストレス」と「負のストレス」を整理することが求められます。
ストレスかどうかは、あなた次第
ストレスとは、元々は外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態のことを言います。
厳密にいうと、「生体に作用する外からの刺激(ストレッサー)に対して生じる生体の非特異的反応の総称」です。
つまり、刺激によって誘発された「反応」のことです。
よってじつは「普段感じているありとあらゆる刺激」がストレスを生じさせているのです。
たとえば、「誕生日おめでとう」と言われると、嬉しさを感じると思います。
そんな「嬉しい」という反応もストレスですし、逆に上司から小言を言われて感じる「不快感」もストレスです。
ただ、人によっては、誕生日を祝われて「歳をとったことを知るからイヤだ!」と、不快に感じる人もいます。
そうやって、自分に合わせて何が正のストレスか負のストレスなのかを選りすぐることが大事なのです。
サウナやマラソンのような趣味は、最初は熱や疲れによってストレスを生み出すだけの行為です。
しかし、何度かそれを繰り返し、ストレスに打ち勝つことによって、「大きな達成感」を生み出します。
ここにストレス解放のヒントがあります。
決められた時間だけストレスを受け、そこから解放されて脳が目標を達成すると、「達成感」を感じます。
サウナもマラソンも、ストレスに耐えれば耐えるほど、後から快楽がおとずれます。
人によって、ストレスの正負は異なります。
メンタルが弱っているときには、自分にとって「負のストレス」にしか目がいかなくなっているかもしれません。
ただ、その後、少しでもメンタルが安定しているときには、「正のストレス」を受け入れることが大事です。
それにより、メンタルをこれからもずっと安定させていくことができます。
メンタルが安定したタイミングに、
●「運動をして疲れを受け止める」
●「頭を使う趣味に取り組んでみる」
●「刺激になる友達と会って話をする」
●「人に感謝してもらえるボランティアをやってみる」
など、「正のストレス」を受け入れておくのです。
その体験があることで、この先のあなたのストレスは、軽減されます。
そして、これからのメンタルも安定させて保つことができるのです。
ここまで読んでくれたなら、きっと実践できるはずです。
そして、「自分も変われるかも?」と、思い込んでいるときがチャンスです。
さあ、「感情的な自分」とうまく付き合っていきましょう。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。