日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする。(撮影/疋田千里、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)

世界で活躍できる子どもに育てるために親ができること

育児をするうえで
お金並に大切なものとは

――若い人は一度は外の世界を見るべきとのことですが、日本人が海外に出るにあたって、どういうルートで出るのが一番望ましいのでしょうか。たとえばすでに働いているという場合、「ここで心機一転海外へ」となると、なかなかルートが限られてくると思うのですが。

堀内勉(以下、堀内) 大企業だったら、海外勤務をさせてくれるところはありますよね。もちろん希望が通るかどうかはわかりませんが。

徳成旨亮(以下、徳成) 今は通りますよ。行きたいという人が少ないですから。一時はすごい減っていて、最近はまた少し増えてはきているんですけど、相変わらず少ないことには変わりない。

堀内 だから大企業で働いているなら、「とにかく行かせろ」と言い続けるのはひとつの方法ですし、叶わないなら会社をいったん辞めて行ってもいいんじゃないでしょうか? だって今は、大卒20代の離職率って3割ぐらいなんでしょ?

徳成 そうですね、みずから辞める若者は多いですね。

堀内 そうしたら、辞めて別の日本企業に転職するかわりに、海外の企業に行くという手もあると思います。もちろん英語がそこまでできない場合、周りはみんな外国人のような外資系企業にいきなり行くのはしんどいけど、海外の日本企業に就職するとかならできるでしょう。

 質問の意図と外れてしまうかもしれませんが、私はやはり10代のうちに海外に行く必要があると思っています。それこそユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン(UWC ISAK JAPAN)代表理事の小林りん氏のように、自分の意思で海外の高校に行くとか。

 彼女はもともとは日本の有名進学校にいたのですが、日本の大学受験制度を見て、これではダメだと思い立ってUWCというグローバルな教育の団体に応募して、UWCのカナダ校・ピアソンカレッジに転校したのですが、そのような日本人は非常に珍しいと思います。

 ですから、自分自身の意思で海外に行くことも大事ですが、親世代が自覚的に子どもをサポートしてあげることも大切だと思っています。もちろんそうなると経済力があるというのがひとつの前提にはなってしまいますが。

 アメリカやスイスのボーディングスクールなどは、奨学金の制度はあるにせよ、年間の授業料が1000万円くらいかかってしまうので、本当に裕福でなければ厳しいですが、北欧とかカナダならそこまで授業料が高くはないし。あと最近は、アジアに留学する人も増えています。

 とにかく何らかの形で海外に出してあげるというのが必要だと思っています。文部科学省が官民協働でやっている「トビタテ! 留学」とか、留学費用を支援してくれる制度があって、あれはかなりの人数を支援していますよね。

 親ガチャというと、親がすごくお金持ちだったり社会的地位があったり、というイメージが強いですが、子どもの生き方について適時適切なサポートをしてあげる親かどうかも親ガチャな側面があるのかなと感じています。

 いくらお金があっても、とにかく受験勉強をさせていい大学に行かせて、それでいわゆるJTC(伝統的な日本の大企業)に就職したら嬉しいというような価値観の親だと、けっこう厳しいなという思いもあって。相変わらず昭和の価値観を押し付けるような親のもとで育ってしまうと……。

徳成 難しいですよね。今でも幼い子どもを持つ親世代の人たちを見ていると、やっぱり昔ながらの価値観なんですよね。だから塾漬けだったり、偏差値信奉だったり。うーん、この若い優秀な子たちにこの教育で、日本はどうなるんだろう、と不安に思ってしまう。みんなとは言わないけど、そのうちの何%かだけでも海外で勉強させてあげたいなと、思ってしまいます。

堀内 受験勉強のゲームのルールというのはローカルルールなので、外では通用しないですからね。そう考えると、使ったエネルギーが全然報われない。

世界で活躍できる子どもに育てるために親ができること堀内勉(ほりうち・つとむ)
多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長、一般社団法人100年企業戦略研究所所長、一般社団法人アジアソサエティ・ジャパンセンター理事兼アート委員会共同委員長、ボルテックス取締役会長他。
東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、東京大学Executive Management Program(東大EMP)修了。日本興業銀行(現みずほFG)、ゴールドマン・サックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員兼最高財務責任者(CFO)、アクアイグニス取締役会長等を歴任。資本主義の研究をライフワークにしており、多くの学者・ビジネスパーソンと「資本主義研究会」を主催している。著書に『人生を変える読書』(学研)、『読書大全』(日経BP)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)などがある。