年始の「異常事態」に
全席自由席の臨時列車を設定
思いのほか平穏に過ぎた年末に対し、年始は最悪の門出であった。元日夕方、石川県能登半島で日本海側としては最大級のマグニチュード7.6の大地震「令和6年能登半島地震」が発生し、石川県羽咋郡志賀町で最大震度7を記録。珠洲市や輪島市、穴水町を中心に家屋の倒壊や津波、火災により1月11日時点で死者が200人を超える甚大な被害をもたらした。
能登半島に注目が集まる中、翌2日には羽田空港で、震災の救援活動中だった海上保安庁の航空機と新千歳発羽田行き日本航空516便が衝突し炎上。日航機の乗員乗客は全員が脱出したが、海上保安庁の乗員5人が死亡する事故が発生した。
地震では2日の午後まで上越新幹線、北陸新幹線が一部区間で運転を見合わせた上、羽田空港衝突事故で7日まで、同空港C滑走路の運用が停止し、国内線800便以上が欠航する事態となり、2、3日にピークを迎えるUターンラッシュは大混乱となった。
そこでJR東海は2日夜以降、JR東日本・JR北海道は3日以降、グリーン車・グランクラスを除き全車自由席の臨時列車を設定し、欠航便の利用者を受け入れる体制を急きょ整えた。
筆者は上りピークの1月3日、まず大宮駅から東北新幹線の自由席で東京駅に向かい、到着列車の混雑状況とホームの混雑を確認したが、運転を再開したばかりの北陸新幹線、上越新幹線、東北新幹線では混雑しがちな盛岡行き「やまびこ」と、山形新幹線「つばさ」と併結する仙台行「やまびこ」に極端な混雑や混乱は見られなかった。
東海道新幹線は1月3日、東京駅9時24分発「のぞみ835号」、10時24分発「のぞみ847号」、11時42分発「のぞみ883号」、12時42分発「のぞみ895号」、いずれも新大阪行の下り4本の臨時列車を設定。この結果、全車指定席と全車自由席の列車が併存する「異常事態」となった。
このうち「のぞみ895号」の様子を見たが、乗客は1両あたり10人程度。航空難民が新幹線に流入することはなく、形だけ見れば「空振り」に終った(下写真)。
それでもピーク期に急きょ臨時列車を、しかも全車指定席化に踏み切った中で全車自由席の列車を設定した意義は大きく、公共交通機関としての矜持(きょうじ)を見せたと言えるだろう(前日に決定したため、指定席を設定できなかったという事情もあるだろうが)。
能登半島地震では逆に日本航空と全日空が小松空港~羽田空港間に臨時便を設定し、運転を見合わせた北陸新幹線をサポートした。鉄道と航空はライバルであるが、同時に協力・補完関係にもある。
コロナ禍からの再建過程で鉄道、航空とも輸送サービスの「合理化」「スリム化」が進んでいるが、余裕のない体制では突発的な事態に対応できない。年始を襲った2つの悲劇は、余剰に見える人員や設備の確保の重要性と、柔軟な対応が可能な余地を残しておくことの必要性を示した。
「のぞみ」全席指定席化はこれに反する取り組みのように見えるが、全車自由席の臨時列車を柔軟に設定できることを示したことは大きな意義があったと言えるだろう。