「何をやるか」より「誰とやるか」が重要
山口 就職先や付き合う人を決めるときに、自分の価値観がお金と愛の座標軸のどのあたりにあるのかを把握しておいて、その地点に近いところにいる人と接点を持ったほうがいいのではないかと思います。つまり「何をやるか」よりも「誰とやるか」がかなり重要で、そこだけはしっかりと見極めたほうがいいですよ。
僕の場合も、たとえば極めて優秀なエンジニアがいて、でもその人がお金にガツガツしていたら、涙を飲んでこの人とは一緒に仕事をしないと決めます。一方で、僕はNPOの資金調達のお手伝いもしていますが、なかにはボランティア精神があまりにも強すぎて、生活力が低い人もいます。こういう人も僕の価値観とはズレるので、うまくいかないと思います。
大石 なるほど。
山口 大石さんの話をお聞きしていると、子どものころの原体験を生かして、将来的にホテルなどのホスピタリティ事業に関わるといいような気がしますね。
日本はこれから観光立国を進めるしかないと思っていますが、南仏や北アフリカのエーゲ海に面したところにある長期滞在型リゾートのような、豊かさを提供するホテルが現状ほとんどありません。日本にも一部そういう志向の企業が経営するホテルもありますが、そこも買収を繰り返しているうちにクオリティが下がってきたように見えます。ホテル事業に投資するファンドも、ある地域のホテルをまとめて買収し、価値が上がったら外国人に売却して利益を得る形態が多いです。
つまり、日本の田園風景を残し、豊かさを提供するというコンセプトがほとんどないので、大石さんが志向するホテル事業はプロジェクトとして成立すると思いますよ。そのためには、豊かさを知るオーナー企業経営者に近くに入り込むべきです。そういう人は日本にも何人かいらっしゃって、たとえばベネッセコーポレーション会長の福武總一郎さんなどは――。
大石 そういえば、東大に「福武ホール」がありますよね。
山口 それをつくった人ですね。福武さんは瀬戸内海の直島に「ベネッセアートサイト直島」というものもつくっています。そこは美術館もあり、ホテルもきれいで、島全体が豊かさに満ちているところです。だから、大石さんがそういうメッセージを今後も発信していれば、必ずどこかで誰かが「彼女の言うように、日本にもそういう豊かな場所が必要だよね」と考え、チャンスが巡ってくる気がします。