サムスンの「大苦戦決算」後に政策発表

 尹政権がK-半導体クラスター戦略を発表する約1週間前の1月9日、サムスン電子は2023年の連結決算(速報)を発表した。主力のメモリー半導体の市況悪化などから、営業利益は前年比85%減の6兆5400億ウォン(約7200億円)と、リーマンショック以来の低水準に落ち込んだ。

 大苦戦した要因は、NAND型フラッシュメモリーと、データの一時保存に使われるDRAMの需要が減少したことだ。コロナショックでデジタル化は一時急加速したものの、その後は落ち着き、米金利上昇、米国の対中半導体規制強化などが響いた。

 とはいえ、23年後半以降、持ち直しの兆しも出始めている。特に、生成AIの分野で、既存の製品よりもデータ転送速度の速いメモリーチップ需要が急増している。23年9月に、「サムスン電子が米エヌビディアの最新AIチップに対応したHBM(DRAMを積み重ねた新しいタイプのメモリーチップ)の供給を開始する」との観測が出た際、サムスン電子の株価は上昇した。

 また、同社の新型スマホの「ギャラクシーS24」シリーズは、グーグルのAI「ジェミニ」に対応し、同時翻訳などの新機能を搭載している。

 こうした高い成長が期待できる生成AI分野で競争力を上げるためだろう。サムスン電子は23年、53兆7000億ウォン(約6兆円)の設備投資を実施した。業績は厳しかったにもかかわらず、投資額(前年比1%増)を減らすようなことはしなかった。

 サムスン電子の経営を振り返ると、業績が悪い時でも耐えつつ、メモリー半導体、ディスプレー、デジタル家電、スマホ、半導体の受託製造(ファウンドリー)など成長期待の高い分野で設備投資を積み増してきた。そして、喫緊の最重要課題がファウンドリー事業の強化である。ファウンドリー世界最大手でありライバルのTSMCに負けないためには、より積極的で大規模な設備投資が欠かせない。

 ただし、サムスン電子は、家電、ファウンドリー、メモリーなど複数事業を持つがゆえ、半導体専業のライバルとの差を縮めることは難しいというジレンマを抱える。

 実際、TSMCの業績はサムスン電子とは対照的だ。TSMCの23年10~12月期の売上高は、四半期ベースで過去最高水準に回復した。TSMCは、サムスン電子を上回るスピードで半導体の微細化を実現し、AIチップの製造ニーズを取り込んだ。新しい製品であるため価格も高い。規模だけでなく技術レベルにも強みを持つことが、日米欧がこぞって自国内でTSMCの工場を建設しようとする理由だ。