国家レベルでの産業育成競争が激化へ

 前述した通り、近年のわが国は、半導体の地殻変動に比較的うまく対応してきたといえる。半導体製造装置や関連する超高純度部材の分野ではもともと、わが国の競争力が高いことが、TSMCをはじめ海外企業が対日直接投資を積み増す要因となっている。

 加えて、トヨタ自動車やソニーなど大手8社の出資により半導体新会社ラピダスも誕生した。ラピダスは北海道千歳市に5兆円を投じ工場を建設中であり、回路線幅1ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)のAIチップの製造を目指している。同社は、IBMをはじめ海外企業や研究機関との協業・連携にも積極的だ。

 こうして、世界トップシェアだったわが国の半導体産業に復活の兆しが出始めたところに、まるで待ったをかけるかのように、韓国は今般の産業政策を発表したようにみえる。尹大統領はトップセールスも進めていて、23年12月には、オランダのASMLを訪問した。ASMLは極端紫外線(EUV)を用いた露光装置を世界で唯一供給できる企業である。

 尹大統領の訪問を受けて、ASMLはサムスン電子と共同で次世代のEUV露光装置、それを用いた先端半導体製造の研究開発施設を韓国に設立すると発表した。出資規模は共同で1兆ウォン(約1100億円)に上るもようだ。

 K-半導体クラスター戦略をきっかけに、生成AIの開発とそれを支える半導体分野の産業政策を強化する国は増えるだろう。例えば中国は、これまで以上にファーウェイや中芯国際集成電路製造(SMIC)への支援を強化することが考えられる。米国も、補助金や対中制裁を追加的に強化すると予想される。欧州、その他の国や地域も産業政策を強化する公算は大きい。

 そうした展開に対して、わが国の民間企業は半導体関連の研究開発や設備投資のさらなる強化に迫られる。政府は、民間企業のリスク負担を、より積極的に支援すべきだ。半導体関連の専門家の育成も急ぐ必要がある。

 この機を逃すと、中長期的に海外メーカーとの競争力やシェアの格差が拡大し、挽回が難しくなるかもしれない。わが国が自動車に続く基幹産業を構築し、経済の回復を目指す上で、極めて重大な局面に差し掛かっている。