2022年度の小中学校における不登校者数は過去最多の29万9048人、小中高校などで判明したいじめ件数も過去最多の68万1948件になっています。不登校は個人の問題ではなく社会問題です。本連載では、20年にわたり、学校の外から教育支援を続け、コロナ禍以降はメタバースを活用した不登校支援も注目される認定NPO法人「カタリバ」の代表理事、今村久美氏の初著書「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から、不登校を理解し、子どもたちに伴走するためのヒントを、ピックアップしてご紹介していきます。「不登校」という事象について考えるときに、本人へのケアという個人に着目した視点と、教育環境との相性や教育制度など、個人を苦しめている社会の側に視点をおいた考え方など、幾つかの視点があります。ここでは個人に着目した考え方の一つを本書から紹介します。
自分のペースを大切に、通学、学習をしたいなら「通信制高校」
前回の連載で、高校には、全日制、定時制、通信制という3種類の課程があると説明しました。今回は通信制についてお話します。
「N校」などの有名校の登場で、ここ数年、一般からも注目を集めているのが通信制高校。レポート提出とスクーリング(登校による面接指導)などによって74単位以上を取得する「単位制」の高校です。
全国から入学できる広域通信制高校(主に私立)と、学校が所在する都道府県内に住んでいれば入学できる狭域通信制高校(主に公立)がありますが、いずれもマイペースで学べるのが大きなメリット。実際、不登校経験者の割合は、広域通信制で66・7%、狭域通信制で48・9%になっています(平成28年文部科学省調査より)。
通信制高校の仕組みは、やや分かりにくいので、簡単に説明しましょう。
たとえば、3年間で74単位を取るには、1年平均で、レポート60通、スクーリング20日間程度(6割は映像授業などで代替も可)が必要になります。
ただし、実際にはこれだけの指導で自学自習できる子は少ないのが現実。そこで、私立の通信制では、勉強をサポートするために「サポート校」と呼ばれる“塾”と連携したり、自校内に教室に通って学習支援を行うコースを設けたりしています。
そういった+αのサポート部分で、補習的な学習はもちろん、生徒の興味を伸ばす先進的な学習や課外活動、難関大学の入試のための学習など、生徒のニーズに合わせた独自の授業を行って、オリジナルなカリキュラムをつくっているのです。
サポート機能は別料金?
ただし注意したいのは+αのサポート機能の部分は、塾と同じ扱いで、単位取得のための授業料とは別の料金がかかるということ。高校就学支援金(*)は、本来の授業料部分には使えますが、+αのサポート校の授業や講座の部分には使えません。また、従量課金で追加費用がかかってくるケースもあります。
本来の授業料の範囲内で、どこまで生徒の面倒を見てくれるのか。また、サポート部分では、どんな選択肢があり、何をしてくれるのか? ここは学校によって、大きな違いがあります。後から話が違うとならないためにも、本書で紹介しているチェックリストなどを参考に、直接、学校に確認しておきましょう。また通信制で失われがちな、居場所としての機能や、先生からの働きかけ、生徒同士の横のつながりなどが、どの程度あるのかも確認しておくと安心です。
新しい取り組みをしている狭域通信制も
もともと通信制高校は、自立した勤労学生のためにつくられたものですから自学自習が基本です。特に公立の通信制では、今もその考えで運営されているところもあるのですが、実際の入学者が、勤労学生よりも不登校経験者が大半の昨今、新しい在り方を目指す面倒見のよい狭域通信制高校も各地で出てきました。
費用が安いのが公立のメリットですが、さらに本来の授業料の部分のみで、サポート校的な補習授業をやってくれたり、居場所機能を持っている公立通信制や、まだ少ないですが高知の太平洋学園などの私立通信制も出てきています。中には部活に参加できる学校も。
このように通信制高校は、私立も公立も、現在過渡期にあり、そこで行われている教育内容も様々で、玉石混淆であるのが現実です。
全国通信制高等学校評価機構が通信制高校の第三者評価を始めており、認定を受けた学校もあります(https://tsushin-hyoka.org/hyouka_kekka/)。本書では評価機構に認定を受けた広域通信制高校と、先進的な取り組みで注目されている狭域通信制高校を、一例として挙げています。絶対的な基準ではありませんが、参考にしてもよいでしょう。
*就学支援金…年収約910万円未満の世帯に対して、年額11万8800円が支給される(実質、授業料無償)。私立の通信制高校については年収約590万円未満の世帯に対して年額29万7000円が加算される。生活保護や住民税非課税世帯は「高校生等奨学給付金制度」も併用できる。
*本記事は、「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から抜粋・編集したものです。