対策コストと回収運賃の
比較が問題の根幹
結局この問題を突き詰めると、不正乗車対策に投じるコストと、それにより回収できる運賃のどちらが大きいかという話になる。
管理を厳格にすることだけが解決策ではない。例えば、いわゆる「路面電車」である広島電鉄や宇都宮ライトレール(ライトライン)は、ICカード利用者に限り、どの扉からでも乗降できる「信用乗車」制度を取り入れた。
それまでの路面電車は運賃収受を確認するため、運転席横の扉からのみ下車可能だったが、1両の運転ならともかく、長い連節車体の電車でこれでは、乗降に時間がかかってまともに走らない。どの扉も利用できるというのは事業者にも利用者にもメリットがある。
だが事業者の都合で、利用者には何もメリットがない変更を一方的に押し付けても受け入れられないのは当然だ。気が付いたら駅員が消え、券売機が消え、きっぷが買えなくなった、運賃を支払えなくなったのに、利用者自らが証明を行わないと、場合によっては不正と疑われかねない。
中には勝手に「メリット」を見出してしまう利用者も出てくるだろう。乗車証明書以前の問題として、券売機がない無人駅を相互に利用する場合は下車駅の運賃箱に、ちょうどぴったりの現金を投入する必要がある。
最初から悪意で行う不正乗車は論外だが、手持ちがない、金額が分からない、今回は仕方ないスミマセンと軽い気持ちで無賃乗車した人が、段々と慣れてしまう。不正が蔓延すると真面目に運賃を払っている利用者までバカバカしくなって公正なサービスは崩壊する。不正する人が悪いのはもちろんなのだが、環境を作る方にも問題はある。
今回のQRコード乗車証明書対象駅ではないが、JR九州は昨年夏、小倉駅で1日平均300枚売れる170円のきっぷが、隣駅の西小倉駅では30枚しか回収されないとして、しばらく券売機での170円きっぷの販売を停止するとの発表が話題になった。
同社にその後を聞くと、次に安い210円券を使用する動きは一部であったものの、西小倉駅の170円きっぷの回収率は対策前の1割程度から5割程度まで改善したという。その後は通常通り券売機での発売を再開しているといい、「不正乗車の抑制には一定の効果はあり、正しくご利用いただけるお客さまは増えたと考えています」と語っている。
この他にも無人駅でICカードを簡易改札機にタッチせずに乗降するなど、他地域でもさまざまな形態の不正乗車が発生しており、「数字でお示しはできませんが、無人駅等での改札の実施やお客さまからのご意見を踏まえると、一定の不正乗車があると認識しております」と語る。啓発活動に加え、通常は無人の時間帯に抜き打ちできっぷの確認をするなどの対策を行っている。