伊東が先発フル出場できた
三つの理由とは?
声明で貫かれているのは、何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される、という近代法の基本でもある「推定無罪の原則」だ。
実は前出のレキップ紙はロリアン戦の前に、スタッド・ランスのジャン=ピエール・カイヨ会長に取材し、下記のようなコメントを引き出していた。
「私は推定無罪にこだわる。話し合いのなかで、伊東はいつも通りの控えめな態度を見せながら『何も間違ったことはしていない』と主張している。なので、私には彼を信じない理由がない」
また地元紙「リュニオン」は、スタッド・ランスを率いる31歳の青年指揮官、ウィル・スティル監督のコメントを次のように伝えている。
「フットボール以外で何が起ころうとも、準備ができていると感じているのならば、伊東純也は私たちのためにプレーしてくれると確信している。彼の周囲で起こっていることについて、クラブはよくコミュニケーションをとっている。それ以外は、いまのところ私たちの問題になっていない」
推定無罪の原則にのっとり、カタールから戻ってくる伊東を何事もなかったかのように受け入れる。この考え方のもとで、伊東は6日の練習再開とともにスタッド・ランスに合流。順調な調整を重ねたなかでロリアン戦へ向けた遠征メンバー入りと先発を勝ち取り、フル出場に値するプレーを見せ続けたというわけだ。
「推定無罪の原則」が重んじられたこと。伊東がこれまで監督や会長と深い信頼関係を築いていたこと。そして表に出てきている情報を見る限り、現時点ではクラブにおける「スポンサーへの配慮」は行われていないこと。これら3点が、クラブでの早期の先発復帰につながったといえる。
なお、伊東の先発復帰を伝えるスタッド・ランスの公式X(旧ツイッター)の投稿に対して、サポーターからの批判的なコメントは、ほぼ皆無と言っていい。
ただし、この状況が今後も続くかどうかは不透明だ。というのも、スタッド・ランスは先述した公式HP上の声明に、次のような文言を付記している。
「私たちはこのような重要なテーマ(女性への暴力問題)を無視できません。活動(対処)しない、あるいは沈黙を保つことも望んでいません。私たちはここ数シーズン、フランスのプロフットボールリーグと共同して、女性に対するあらゆる形の暴力との戦いに取り組んできたことをあらためて表明するとともに、今後へ向けた新たな啓発活動に取り組んでいることも合わせて発表させていただきます」
フランスでは、性加害を含めた女性への暴力に対して厳しい視線が向けられる社会的風潮がある。当局による捜査などを介し、事実が解明されるなかで、伊東の立場が変わる可能性もゼロではない。