高校卒業後に自衛隊に就職したこの男は、逮捕の9カ月前に退職していた。退職した理由は定かではないが、パチンコなどのギャンブルに収入の多くをつぎ込み、銀行や消費者金融からの借金がかさんだことで延滞を発生。結局はヤミ金に手を出し始めた。そして、その返済に窮したことで2020年10月からSNSで見つけた詐欺グループの犯罪に加わるようになった。

 この事件で最も不可解な部分が、奪った金を詐欺グループが指定した場所に届けるよう命令されていたにもかかわらず、途中で立ち寄ったホテルでこの金をヤミ金に「盗まれて」しまった点だ。しかし、犯人の男は裁判で、ヤミ金が奪ったとされる現金の行方を明らかにせず、いわばヤミ金をかばった。

 このことから、「盗まれた」と言っているものの、実質的には闇バイトで奪った金をヤミ金の返済にあてたのではないかと推測される。詐欺グループの指示役も、手に入れた大金を受け子が持ち逃げするのではなく、まさかヤミ金の返済に充てるとは想像できなかったであろう。いずれにせよ、2022年2月に横浜地裁はこの男に懲役7年の実刑判決を言い渡した。

 筆者は、ヤミ金と、この容疑者との間には、不可解な関係性が構築されていたのではないのかと見ている。これは容疑者の一方的な“思い込み”でしかないが、困ったときにお金を貸してくれるヤミ金に義理と恩義を抱く債務者というのは、いるものなのだ。

ヤミ金に銀行口座を売却
違法行為に手を染める債務者たち

 警察のヤミ金摘発に対して、被害者であるはずの債務者の中には、捜査に協力的でない者もいるという。しかし、いくら債務者が恩義に感じても、ヤミ金や闇バイトの組織にとって債務者は「捨て駒」に過ぎず、高金利で収奪された巨額の資金はマネーロンダリングを介して反社会勢力に流れているという由々しき実態もある。