スマートフォンの急速な普及が、われわれの日々の生活をはじめ、あらゆる産業に劇的な変化をもたらしつつある今日。こうした市場変化を牽引すべく、KDDI株式会社は、「あたらしい自由。」のスローガンのもとに、新たなビジネス戦略とauブランド刷新の取り組みを進めてきた。電通のブランド戦略コンサルタントの小西圭介氏は、同社がネットワークでつながったユーザーとリアルなブランド体験を共有し、共に価値を生み出す、もっとも今日的なブランディングの実践に着目する。
連載第5回は、KDDI株式会社 理事 コミュニケーション本部長の菅隆志氏と、auの新しい通信サービスが目指すものについて議論を交わした。

新生auが目指す「あたらしい自由。」とは

小西:auは2012年1月から、「あたらしい自由。」を旗頭に、ブランドロゴも変更して新たなブランド戦略を進めてきました。その狙いと考え方についてお聞かせください。

菅隆志(すが・たかし)
KDDI株式会社 理事 コミュニケーション本部長。1991年、日本移動通信株式会社に入社。KDDI株式会社、au北陸支社長、au営業推進部長、au関西支社長、コンシューマ事業企画本部長などを経て、2011年より現職。

:まずマーケット環境として、フィーチャーフォンからスマートフォンへの急速な変化やタブレットの普及があり、ネットワークも多様化する中で、お客様がデバイスやネットワークをどのように使っていいか分からなくなっている、という状況がありました。

 こうした中で、お客様が制約にとらわれずに、もっともっと自由な形でスマートフォンを使っていただきたいという思いがありました。

 スマートフォンの利便性や楽しさに対する期待感はあるものの、料金の問題や操作の複雑さ、セキュリティの問題など、一般の人にはさまざまな障壁が存在していたわけです。そこで、われわれは「あたらしい自由。」というメッセージを掲げ、こうした制約を意識しないで、スマートフォンのもたらす新しい世界をもっと自由に、シンプルにより楽しくお使いいただけることを目指しました。

小西:かつて一人一台(一回線)のケータイを初めて手にしたとき感じた「自由」が、さらにスマートデバイスになって、一人がさまざまな端末やネットワークを意識せず、自由に使いこなせる時代になったわけですね。そして、あれだけ浸透したauブランドの全面刷新も大仕事でした。

:2000年の合併以来、携帯電話事業のブランドとして立ち上げたau by KDDIの旧ロゴを使ってきましたが、ブランドもすっかり浸透した中、再強化にあたって、新しいつながりを表現していこうとロゴも刷新を行いました。ブランドカラーのオレンジは継承しつつ、より斬新さ、躍動感を出していこうと筆記体にし、by KDDIを外してひとり立ちさせました。

小西:加えて、ブランド体系も一気に変更して、「ケータイのau」から、4G LTEに固定やケーブル回線、WiFiなども含めた総合通信サービスのブランドに拡張しました。実際、ブランド刷新当初は大きな反響がありましたね。

:そうですね。お客様の間で一気に話題が広まって、ロゴを勝手に加工して遊ぶなど、予想を超えてブランドがひとりでに拡がっていったのには驚きました。今の中学生は筆記体を習っていないことが分かったり、といったこともありましたが、ブランドがお客様のものになっていることを実感しました。