瀧口 なるほど。暦本先生はいかがですか。

暦本 マスクは、やっていることが全部、「直球」なんですね。「自動車はバッテリーで動くべきだ、だからそれをやる。以上!」なんです。当時のバッテリー技術だと「本当にやるの?」って思うんですけども、やる。ニューラリンクも「脳に埋め込まないと絶対ダメだ」と言って、そのための手術用ロボットから自分たちで作る。スペースX*4もそうですよね。「ロケットは飛んで行ったら戻ってくるべきだ」と。だから、言っていることはとてもシンプルなんですが、やるとなるとすごく大変なことなんです。でも、彼にはそれができる財力とビジョンがある。科学者って、けっこう「変化球」をやりたがるんですよ。直球だと苦労するとわかるから、私はカーブで行きます、みたいな気持ちになる。でも、マスクはカーブを投げない。あくまでも直球ど真ん中のストライクを狙っている。すごいのは、そこじゃないですか。

*4[スペースX]
2002年にイーロン・マスクによって設立されたアメリカの宇宙開発企業。すでにロケットや宇宙船、人工衛星などの打ち上げに成功している。2020年には民間企業として初めて宇宙飛行士を国際宇宙ステーションに到着させた。

合田 「変化球にならざるを得ない」というのはありますよね。お金がないから、とか。

暦本 私たちは色々な方法を考えて、なんとかコストをかけずにやろうとするんだけれど、彼の場合はどれだけコストがかかってもいいから、ど真ん中を行く。

Googleの「検索エンジン」は
好奇心から生まれた

加藤 ビジョンでいえば「Google(グーグル)は、今日の世界を思い描いて検索エンジンを作ったのか」「イーロン・マスクは最初からこの世界観を持っていたのか」が僕は気になるんですよね。もし、最初から持っていたとしたら、もう生き物として違いますね(笑)。

暦本 最初から今の状況が見えていたとは思わないですね。グーグルの最初の最初は、こちら側のページからあちら側のページへは辿れるけど、あちら側のページからは辿れないのはなぜなんだろう、みたいなところから始まったので。どちらかというとキュリオシティ(好奇心)型なんです。そのうえで「これは検索に使えるじゃん」ということで作った。でも、検作エンジンを作っただけでは儲からないんです。事実、その後、広告を結びつけるまで、グーグルは全然儲かっていませんでした。

瀧口 好奇心で作っていたんですね。