「もうからない」リニア投資が
JR東海にとって合理的なワケ

 インタビューを通じて改めて感じたのは、JR東海の東名阪輸送に対する強い使命感と自負だ。発足から東海道新幹線に多額の資本を投下し、機能向上を続けてきた結果、利用者数は1.5倍以上に増加し、年間約5000億円のキャッシュフローを稼ぎだしている。

 リニアをめぐる議論とは、本質的には「東海道新幹線の稼ぎを何に使うか」が論点なのだろう。投資家からすれば、「もうからない」リニアにつぎ込むのではなく、収益性の高い関連事業に投資するか、配当として還元してほしい。一方、利用者からすれば、運賃・料金を値下げしてほしいだろう。

 また、新幹線の稼ぎは旧国鉄債務と表裏一体の関係にある。JR東海は旧国鉄債務を約5兆円継承したが、残高は2015年度に2兆円を切るまで減少していた。東海道新幹線の輸送力増強が一段落し、旧国鉄債務の返済にも目途がついたとなれば、新たなお金の使い道を見つけるしかないのだ。それが自らのアイデンティティたる東名阪輸送の二重系化としてのリニアというのは、確かにJR東海からすれば合理的である。

 そんなに東海道新幹線がもうかるのであれば、旧国鉄債務をもっと負担させるべきだったという考えもある。全国の鉄道をひとつのプールで経営していた国鉄では、新幹線の稼ぎは(計算上は)全国の赤字を薄く広く埋めていたが、JR北海道やJR四国、あるいは全国の赤字ローカル鉄道が廃線の危機に瀕する中、JR東海が全てを埋めて余りある利益をあげているのはやるせない。

 これらは確かに「思考実験」としては成り立つし、そうならなかったことを反省するべきかもしれない。だが現実にそのような仕組みで国鉄民営化が進み、完全なる民間会社としてJR東海が成立してしまった以上、今さら元には戻れないのだ。

 JR東海の肩をもちすぎだとお叱りを受けるかもしれないが、本稿はJR東海の「言い分」を聞き、その意図を読み解くことが目的であり、あえてその先には踏み込んでいない。検証や考察はまた別の機会、舞台に譲ろう。