大企業がいくら賃上げできても、大半の中小には関係のない話
日本の賃金が低いのは、国内企業の99.7%を占めて日本人の7割が働いている約350万社の中小企業の賃金が低いから、というのは有名な話だろう。
しかし、その中でも特に低賃金の温床となっているところは知られていない。
それは、「小規模事業者」である。これは従業員が5人から20人という規模で、いわゆる「家族経営の小さな会社」をイメージしてもらえばいい。この小規模事業者は350万社ある中小企業の中でも8割以上を占めている。
つまり、日本の賃上げをしていこうと思ったら最もテコ入れをしなければいけないのは、この「小規模事業者の賃上げ」ということである。
そういう現実を踏まえて、岸田政権が掲げていた「春闘で賃上げムード」という政策を冷静にふりかえってみよう。
日本の労働組合は激減していて、現在2万2789組合。「従業員29人以下」になると21組合しかない(2023年労働組合基礎調査)。春闘で賃金の爆上げを勝ち取ったところで、全国350万社の中小企業に波及しないというのは、説明の必要もあるまい。
波及しないどころか、中小企業で働く7割の日本人をどんどん貧しくしてしまう恐れがある。
政府が「春闘で賃上げムードを」と要請すれば、大企業はそれに協力をせざるを得ない。ただ、ボランティアでやっているわけではないので、当然賃上げ分を補うために「値上げ」に踏み切っていく。ただ、これは大企業にとっては悪い話ではない。
これまでは値上げや価格改定をすると「高い」「消費者をナメているのか」とボロカスに叩かれたものだが、今回は政府の要請を受けて仕方なくの対応だ。つまり、国が大企業の「値上げ」にお墨付きを与えたような形なのだ。消費者から文句を言われても「いや、人件費高騰ですので」と言い訳が立つ。
こうして大企業の「値上げラッシュ」が加速しているわけだが、99.7%を占める中小企業が同じことができるのかというと難しい。結果、日本人の7割は給料が上がらないまま、大企業社員の賃金と物価だけが上昇していくという状況が続いて、気がついたら「実質賃金23カ月連続減」という悲惨な状況になっていたというワケだ。