キリストの墓の隣に葬られた
弟の耳と聖母マリアの頭髪
根拠その2 福音書に残るイエスの最期の言葉
さて、沢口家の墓のすぐ向かいに、目的の「キリストの墓」はある。樹々に囲まれた、少し小高く盛り上がった地形が2つあり、いずれも十字架が立てられている。
向かって右が「十来塚」で、キリストの墓とされるもの。左は「十代墓」で、こちらはキリストが携えていた、弟・イスキリの耳と聖母マリアの頭髪を葬った墓とされている。
実は、キリストに影武者が存在したとする説は、古くから根強い。イエスはもともと双子で、処刑されたのは弟であるという、まさしく戸来村の言い伝えそのままの物語が世界中で囁かれているのだ。
その根拠のひとつは、磔にされたキリストが、今際の際に叫んだという次の言葉にある。
「エロイ、エロイ、レマ、サバクタニ」
一見すると意味不明の呪文のようだが、これは『マタイによる福音書』にしっかりと記されているイエスの最期の言葉である。「エロイ」とはアラム語で「上」もしくは「上にある」の意で、一般的には神を指す言葉だという。そして続く「レマ、サバクタニ」の訳は、「なぜ私をお見捨てになったのですか」となる。
果たしてキリストは、最期に神頼み、あるいは神への恨み言を口にしたのだろうか? いや、そこには日本にキリストの墓がある理由に通ずる、もうひとつの解釈が存在している。
「エロイ」を上にある存在として「兄」と読み解く。すると、キリストの最期の言葉は次のようになる。
「兄よ、兄よ、なぜ私をお見捨てになったのですか」
ちょっとゾクリとさせられる符合ではないか。もっとも、キリストが本当に双子の弟がいたのかどうかは定かではないのだが。

