しかし、今ではそのように日本から学ぼうとしている国は皆無です。

 このような国内と海外との認識の差は、日本だけがいまだに政府・大企業中心の発想から離れることができていないことから生じているのかもしれません。

「スペック」の開発よりもまず
「顧客」の要望に寄り添うこと

2 なぜ「具体的用途や顧客が不明な投資」をしていては勝てないのか?

 日本の国策プロジェクトのもう一つの不可解な点は、多くの場合、「スペック」を開発目標にしており、具体的用途も顧客も明確ではないことです。

 世界最初のマイクロプロセッサは日本企業が高級電卓に使うために、インテルに発注したものでした。インテルは、ウインドウズを搭載したIBM互換PCを動かすためのマイクロプロセッサの開発に注力することで世界一の半導体企業となりました。

 天才設計者ジム・ケラーが天才と呼ばれるようになったのは、アップルのためにA4、A5チップを開発したからです。

 このように、半導体の開発とはすべて特定のニーズを満たすために、顧客との接点で開発されたものです。単に高スペック化すればいいというものではありません。

 モバイル端末のプロセッサで世界最大のARMはケンブリッジ大学発のベンチャー企業でしたが、彼らが最初に開発に成功した省電力型のチップはアップルのスティーブ・ジョブズが開発しようとしていたアップル・ニュートン向けに開発されたものでした。

 アップル・ニュートンとはiPhoneの原型であり、想定していた機能もほぼ今のiPhoneのようなものでしたが、通信速度や処理速度が今とは比べ物にならないくらいに遅かったため、コンセプトだけが先行して使い物にならず、全く売れず、大失敗となりました。副産物としてARMを生んだということになります。

 現在最も勢いのある半導体企業エヌビディアは、ソニーのプレイステーションなどのGPUを開発したことで実力をつけ、今のGPUの王者の地位を築きました。フラッシュメモリの開発も、性能を高くするより値段を安くしてほしい、との顧客の要望に応えようとした舛岡の発想から生まれたものです。