「米中新冷戦」の始まりと
日本の製造業復活

 日本経済は、冷戦下ではアメリカからの恩恵などの点で有利だったが、グローバリズム下では不利だった。しかし、2016年にアメリカでトランプ大統領が誕生したことで、状況が変わり始めた。

 トランプ政権は、製造業が中国に集中すると、基幹技術が中国に流出し、中国が技術を軍事転用してアメリカの安全保障に脅威をもたらすと主張。そして、中国に貿易制裁を課して封じ込め政策を始める。これに日本やEUも追随して、中国経済を西側から切り離すデカップリング(切り離し)政策が始まり、徐々に「米中新冷戦」の様相を見せはじめる。

 ただし、完全なデカップリングは西側にもダメージがあることから、現在は中国のリスクを軽減して経済へのダメージを減らすデリスキングに移行している。とはいえ、中国への警戒姿勢は続いており、安全保障における中国包囲網はむしろ強まっている。

 特に先端技術において、アメリカは中国に対して徹底的な封じ込めを行っている。そのため、中国は自前で先端半導体を開発しなければならないところまで追いつめられ、一時ファーウェイは5Gスマホの生産を中止せざるを得なくなった(現在は、自国開発の先端半導体で生産を開始している)。

 かたや日本は、アベノミクスによる金融緩和に加えて、コロナ禍に世帯への現金給付を含む大型のマネー供給を続け、さらにウクライナ戦争をきっかけに起こったエネルギー危機によってエネルギー輸入国である日本の貿易赤字が膨らみ、久しぶりの超円安に突入している。

 円安は国内製造業の立て直しに大きく寄与して、日本への投資を呼び込み、日本の製造業復活に向けた勢いが出始めている。

アメリカによる日本への
先端技術投資が活発化する理由

 また、おりしもアメリカは脱中国の流れから、先端半導体などの高技術製品を日本に頼るようになっている。

 その象徴が、半導体製造企業のラピダスの誕生だろう。

 ラピダスは2022年に国産半導体の復活を目指して設立された。国の半導体開発の方針により巨額予算がつぎ込まれ、米IBMの2ナノ半導体の技術を使って先端半導体の大量生産を目指す日米連携企業でもある。

 これはアメリカが自国の知的財産の活用を、中国ではなく日本で行い始めたことの象徴だと言っていいだろう。

 1980年代、半導体産業は日本が寡占していた。しかし、日本の圧倒的に強さを恐れたアメリカの方針と、冷戦後のグローバル化の波で製造拠点が中国や台湾や韓国に分散されたことが重なったことで、これらの国に大きく後れを取った。また、日本企業が半導体を設計と製造を分ける水平分業化の波に乗り遅れたことも大きかった。

 だが、新冷戦で中国が製造拠点から外されると、日本は半導体製造の拠点として再び脚光を浴びることとなった。その裏には、経産省を中心とした台湾TSMCの熊本誘致など、地道な努力があったことも付け加えておきたい。

 日本の強みは大きく2つある。トヨタのカンバン方式(ジャスト・イン・タイム方式)に代表される大量生産技術と、企業に蓄積された製造技術である。日本経済がデフレスパイラルに陥る中でも、中小企業はなんとか技術力を保ってきており、日本政府も中小企業を守る政策を続けた。

 また、ソフトバンクがシャープの液晶パネルの堺工場を大規模なAIデータセンターに転用すると発表しているように、国内には、かつて先端製品を作ってきた工場がいくつもある。

 米中対立の新冷戦で、アメリカが中国とのデカップリングを始めれば、生産拠点の第一候補となるのは技術力を温存して、大量生産技術を保持している日本である。今後、データセンターをはじめ、日本で先端技術投資が活発になることは確実である。