「美術ってうまいとか下手よりも、思考力を伸ばす授業だったんだ!」
このような驚きの声が、大人から子どもまで様々な世代から寄せられているのが、書籍『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』だ。アート思考とは、アート鑑賞を通じて「自分なりのものの見方」を養うメソッド。著者の末永幸歩さんは、全国の小中高生を対象にアート思考の授業を行い、「自分の頭で答えを出す力」を伸ばす方法を伝授している。
そのような思考法のエッセンスを、20世紀アートを代表する6作品とともに学べる本書は、「子どもと一緒にアートを楽しみたくなった」「面白かったので友だちにあげて、自分用にもう1冊買った」との反響も呼んでいる。今回は、そんな本書から、内容の一部をピックアップしてご紹介する。(文・構成/ダイヤモンド社 根本隼)
「中学生が嫌いになる教科」…第1位は?
みなさんは、「美術」という教科が好きだっただろうか。筆者は、率直に言うと大嫌いだった。中学生のときに、自画像や校内のスケッチ、静物画などを描いたが、どれも目も当てられないほどひどい出来で、当然のように成績は低評価だった。
その負のイメージを引きずり、高校の芸術科目では「美術」は選択しなかった。
しかし、記憶を遡ってみると、小学校の「図工」の授業は楽しかったように思う。個人的には、木の板にくぎを打って作る「ビー玉迷路」が印象に残っている。
本書によると、この「小学生のときは楽しかったのに、中学生になって急に苦手になった」という現象は、ある程度普遍的なようだ。
小学校の「図工」は第3位の人気を誇っているのですが、中学校の「美術」になった途端に人気が急落しているのが見て取れます。小→中の変化に注目するなら、下落幅は全教科のなかで第1位。「美術」はなんと「最も人気をなくす教科」なのです。(P.9)
子どもの「自分の頭で考える力」を伸ばすには?
算数/数学や国語も人気度は低下しているが、美術の下落幅はダントツだ。なぜ、これほど急激に不人気になっているのだろうか。
本書によると、絵を描く「技術」や、美術史にまつわる「知識」に重きを置いた授業内容が、生徒の意欲や創造性を削いでいる可能性があるという。
このような問題意識から、私が担当する中高生向けの「美術」の授業では、作品づくりのための技術指導や美術史上の用語を暗記させるようなことは、ごくわずかしか行いません。
実技制作をするときも、生徒たちに「自分なりのものの見方・考え方」を手に入れてもらうことに力点を置いています。(P.13~14)
世の中の変化が激しく、絶対の正解がない時代を生き抜くためにも、「自分なりのものの見方」を育むアート思考は重要だ。では、子どものアート思考を深めるために、家庭レベルでできることはあるだろうか?
末永さんのおすすめは、「アウトプット鑑賞」だ。やり方は極めてシンプルで、作品を見て、気がついたことや感じたことを声に出したり、紙に書き出したりして「アウトプット」するだけ。
これによって、自らの五感を使って作品に向き合い、自分なりの考えや答えを出すトレーニングになる。さらに、誰かと一緒にアウトプットすることで、互いの気づきが学びに発展し、考えが深まるきっかけになるという。
夏休みシーズンということもあり、いま各地で美術展やアート展が開催されている。本書で紹介されている「アウトプット鑑賞」を、親子で楽しみながら実践してみるのも有意義な過ごし方かもしれない。
(本記事は『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』より一部を引用して解説しています)
アート教育実践家・アーティスト
武蔵野美術大学 造形学部 卒業。東京学芸大学 大学院教育学研究科(美術教育)修了。現在、東京学芸大学 個人研究員。
東京都の中学校の美術教諭を経て、2020年にアート教育実践家として独立。
「制作の技術指導」「美術史の知識伝達」などに偏重した美術教育の実態に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方の可能性を広げ、自分だけの答えを探究する」ことに力点を置いた授業を行ってきた。
現在は、各地の教育機関や企業で講演やワークショップを実施する他、メディアでの提言・執筆活動などを通して、生きることや学ぶことの基盤となるアートの考え方を伝えている。
プライベートでは一児の母。「こどもはみんなアーティスト」というピカソの言葉を座右の銘に、日々子どもから新しい世界の見方を教わっている。著書に、『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』がある。