この事件の教訓は、初動対応の甘さが主因となり、楊の逮捕が見送られた点にある。報道によれば、デンソーの調査担当社員が楊の自宅に同行し、会社のパソコンの返却と私有パソコンの提出を求めたが、担当社員は外で待たされ、約1時間後に部屋に入ると、私有パソコンが破壊されていたという。

 その後、会社側は愛知県警に相談したが、証拠が不十分だったため、名古屋地検は楊を処分保留で釈放した。証拠が隠滅されたことで、事実関係が解明されず、立件が不可能と判断されたのである。

 日本国内では、民間企業や大学、独立行政法人で働く中国人が増加している。日本の大学には多くの中国人留学生が学んでおり、彼らが卒業後に日本の民間企業などに直接入社すれば、警戒感が薄れることになるかもしれない。

 しかし、中国情報機関の統制下で情報活動に加担している者も存在する可能性があることには要注意である。

工作員が不要の
「千粒の砂」作戦とは

 中国による諜報事件は、ロシアや北朝鮮による諜報事件と比較して検挙件数が少ないのが実態である。その理由としては、中国の諜報活動は日中交流関係や経済活動を隠れ蓑にして行われており、それら一般的な活動と諜報活動が混然一体となっているからだ。