白菜の葉の部分と、厚みのあるところをてきぱきと切り分けていく。白菜は厚い部分を先に煮ておき、薄いところはすぐ火が通るので食べる直前に入れると、よりおいしくいただける。小ぶりな4分の1把があっという間に刻まれた。

「きょうの気分で、鍋料理を作ってください」

 そんなざっくりしたお願いを快く引き受けてくださった吉坊さんは、現在40歳(編集部注/取材当時)。上方落語界では、もう中堅どころになるだろう。

 初めて包丁をにぎったのは、桂米朝師匠の内弟子になったとき。19歳だった。内弟子とは師匠宅に住み込み、日常の用事雑事一切をしなくてはならない。

 師のやることなすことを間近に見て、手伝いつつ、落語家として必要なこと、修業者としての心構えを実際の稽古以外から学んでいく……という昔ながらのやり方である。

「食事の支度もするんですが、料理は初めてもいいとこで。最初は何をどうしていいのか全然分かりませんでした」

 米朝夫人や兄弟子から教わりつつ、見様見まねで料理を覚えていく。覚えは早かった。

師匠からのお題は「鯛をさばけ」
噺のワザは実践から学んだ

 興味も出てきて、そのうち魚をさばくようにもなる。