ステップ2
メガバンク型の巨大鉄道持ち株会社の誕生

 さて、こうやって3社が合併し、3社の運賃体系を統合したとしたらどうなるでしょうか?

 それまで別々の運賃がとれたのに、統合して乗り継ぎ分が安くなるので新会社は損をするのでしょうか?実はそうとも言えません。

 というのは新会社は都心部でJRからの乗り継ぎ需要を奪うことができるのです。それに加えて、実は京急が入っていることで羽田空港からのアクセス需要を東京メトロネットワークに取り込むことが可能になります。

 これまで京急品川からJRに流れていた旅客の流れをそのまま都営浅草線を経由して東京メトロの銀座線、日比谷線、東西線に流し込みます。

 要するに合併することで都心部でのネットワーク経済性を高めることが、戦略としての着眼点その1。そして国内の移動の要衝であり東京メトロが押さえてこなかった羽田と品川を抑えるというのが戦略の着眼点その2だというわけです。これが第三のパートナーとして京急を取り込む布石の意味でした。

 しかし、京急をパートナーに取り込むことには実はさらにもうひとつ別の布石としての意味があります。それはひとつ前例ができることによって、他の私鉄もこのグループに加わることを想像するようになることです。新たな成長機会の窓が開くのです。

 この時点で3社連合の時価総額を「1.2兆円を超える」と想定してみます。それに匹敵する存在としては東急電鉄の1.2兆円、西武鉄道の1兆円が対等合併の視野に入ってきます。

 ただしこれらの企業の歴史を考えると、東急にしても西武にしても合併によって企業名が消滅するという形を呑むことは難しいと思われます。そこで考えられるのが、メガバンクと同じような持ち株会社方式での規模拡大です。

 つまり同じ持ち株会社の傘の下に入ったとしても、それぞれの企業はそのままで存続していく。異なる会社でありながら戦略としては連携し、かつ時価総額規模を共有財産とすることでより優位に事業規模を拡大していくことができるようになるという考え方です。

 この考えであれば今はそれぞれ別々の会社でも併せて時価総額1.1兆円の小田急・京王連合も、同様に1.3兆円規模になる東武・京成連合も規模的には均衡します。かつてメガバンクがつぎつぎと再編したように、これまで考えてこなかったような再編の組み合わせが成立するようになるのです。

 運賃という観点では最初の合併の際には統合を提案しましたが、それはあくまで羽田からのアクセスでJRを打倒することが狙いでした。それ以降の合併では運賃については首都圏沿線の私鉄各社とは別会社ということで運賃統合はせず、あくまで乗り継ぎ割引運賃ぐらいのグループ施策にしたほうが利益は最大化できそうです。

 この私鉄連合が生む新たな強みは、時価総額を背景に潤沢な不動産投資の資金を得られるという点です。これまでそれぞれの体力では少しずつ段階を踏んだ形でしか取り組めなかった渋谷駅、新宿駅、池袋駅の再開発、そして浅草、日暮里、上野、蒲田などのエリア開発にも持ち株全体で同時並行で乗り出すことができるようになります。

 首都圏のすべての私鉄の統合は想定しないとしても、ここで3兆円規模の鉄道持ち株会社集団ができれば、それはメガ鉄道会社の出現となり、首都圏においてはJR東日本に対峙する巨大勢力となることは間違いないでしょう。