(2)自分が「聞く人」であり、「読む人」のことが分からない

 P.F.ドラッカーは、『経営者の条件』で、マネジャーがどのように情報を最も効果的に受け取るかについて、「情報を収集し、学び、理解する方法が人によって異なる」と述べている。一部のマネジャーは文書や書かれたレポートを通じて情報を得るのが得意であり、「読む人」と呼ばれる。一方、他のマネジャーは会議や対話を通じて情報を得るのが得意であり、「聞く人」と呼ばれる。

 ドラッカーが指摘する「読む人」と「聞く人」の違いは、電話を使うかどうかの選択にも関係している可能性がある。「聞く人」は直接的な会話を通じて情報を得ることを好むため、電話を積極的に利用する可能性がある。声のトーンや話し方から即時のフィードバックを得ることができる電話は、彼らにとってより効果的にコミュニケーションが行えるツールである。

 一方で、「読む人」は書かれた情報から学ぶことが得意なため、メールや書面によるコミュニケーションを重視する。彼らは情報を自分のペースで処理し、必要に応じて文書を再読して詳細を把握することを好む。

「聞く人」はこういった「読む人」のことが分からないので、自分と同様に「聞く」ことのできる電話を誰もが好んでいるはずだと思い込んでいる可能性がある。そこで、「聞く人」は「読む人」の嗜好を無視して平気で電話をしてしまう。

(3)緊急性や即時性の自分勝手な運用

 電話を嫌う人であっても、「緊急性」や「即時性」が必要とされる場面にあっては、電話は役に立つメディアだということを認めている。しかしながら、その判断は、第一義的には発信者が行うため、発信者にとって(受信者ではなく)、緊急性や即時性の必要性が高いと判断した場合は、受信者の状況を考慮せずに電話をかけることになる。

 例えば、ある有名経営者の秘書は、夜中の2時であろうと3時であろうと、いつ経営者から電話がかかってくるかもしれないので枕を高くして眠ることができないと言う。経営者は寝床で何かを思いついたら、その瞬間にそれを誰かに伝達しようとする。吐き出さないと忘れてしまうからだ。そして、その行為は、会社にとって緊急で重要なことだから、必要なことだと正当化されている。ただ、言うまでもなく、秘書にとっては大変なストレスである(これについては、もうすぐAIコンパニオンが代替するだろう)。

 これは、見方によっては、経営者にとってのみ都合のよい緊急性や即時性の解釈である。しかし、これと似たような状況判断をする人はあちらこちらにいる。発信者側の自分勝手な判断で、緊急ではないことを緊急だと思い、いますぐに伝えないとまずいと(間違って)判断して、電話をかけるから、電話をかけてくる人が絶えないのである。

 これら3つのようなことが、テキストによるコミュニケーションが浸透した今もなお、「電話をかけてくる人」が絶えない主な原因ではないかと私は考えている。