見逃してはいけない
「親のSOS」

 教育虐待をしている親自身が自分は“毒親”だと気づくことができなければ、負のループを断ち切ることはできない。H子さんの場合は、たまたま職場の上司が母娘の異変を察知して、カウンセリングを受けるように勧めたという。これが娘を救うことにつながり、母子の関係を見直すきっかけになった。親のSOSを見過ごさないためにも「親が話せる場所」が必要だという。

「親もなぜ虐待をしてしまうのか、実は親自身が誰にも相談ができずに一人抱えている苦しい現状があるのではないかと思っています、私のように話せる場があることでどれだけの親子が教育虐待の加虐、被虐にならずに済むのだろうかと考えると、親側のサポートも必要だろうと感じています。なかなか外に向けて話を出しにくい内容ですし、一見、周囲からは問題のない家族に見えるからこそ気付かれにくく、隠しやすくもあります」

 H子さんは今、医療機関で専門職として働いている。毎日、心の不調を訴える親たちの話を聞くなかで、親は親で苦しんでいると感じることが本当に多くあるという。子どもたちが被害を受けないようにすることと同時に、親のケアの必要性も感じている。

「特に診察前の面談で親子の話を聞いていると、中学受験をきっかけに具合が悪くなったり、受験勉強を強制的にやらされたりしたと訴えるお子さんがいます。受験とは誰のために何のためにあるのかと考えてしまうことが多くあります。たくさんの話を私にしてくれるお子さんと出会うと、親御さんがこのような話を聞いてくれる場面はなかったのかなと感じることもあります。