バースデーシールを大量に持っていて
若い女性ゲストだけを選んで渡していた
小泉さんは積極的に出勤するものの、積極的に仕事をするわけではない。
トラッシュカンからゴミを回収する「ダンプ担当」の際、できる限りオンステージをブラブラして、回収数を抑える。これが彼の得意技だった。
何時間で何個などと作業量が決まっているわけではないので特別注意を受けることはない。ただ、回収に回る回数が減ると、必然的にトラッシュカンのゴミの量が増えるので、引き継いだキャストの負担は大きくなる。小泉さんの担当時間が終わると、あとを引き継いだキャストがたいへんだった。
あるとき、そうした小泉さんの仕事ぶりを見かねた20代の若手キャスト・浜田君(仮名)がきちんと回収してくれるように頼んだという。すると小泉さんは「そういうことは私みたいな老人じゃなくて、若い人たちでフォローしてくれよ」とのたまったという。
正義感の強い浜田君は、小泉さんの言い草に憤慨していた。そして、それ以来、浜田君は小泉さんを毛嫌いし、徹底的に避けるようになった。それでも小泉さんは痛痒を感じていないようだった。
小泉さんには、月間の勤務時間数のことで揉めたスーパーバイザー(SV)を恫喝したという噂もあった。キャストのあいだではこうした噂はすぐに広まる。真偽のほどはわからなかったが、彼ならさもありなん、と納得したものだ。
ゲストにも同僚にもSVにも態度が悪く横柄な小泉さんだが、若い女性のゲスト対応だけは積極的かつ丁寧だった。プリンセスの絵を得意とするキャストが作ったプリンセスの絵付きのバースデーシールを大量に持っていて、若い女性ゲストだけを選んで渡していた。
男性ゲストはもちろん、幼い子どもが寄ってきてもきっちり無視する。そのセンサーは抜群だった。